聖書

ダビデ王の悲しみと選択

ダビデ王の心は重かった。彼の息子アブサロムが反逆を起こし、イスラエルの民を引き連れて王に敵対していた。ダビデはエルサレムを離れ、ヨルダン川を渡り、荒野へと逃れていた。しかし、彼の心は常にアブサロムのことで揺れ動いていた。彼は息子を愛していたが、同時に王国を守る責任も負っていた。

ダビデは軍勢を整え、三つの部隊に分けた。ヨアブ、アビシャイ、そしてイタイという三人の将軍にそれぞれの部隊を指揮させた。彼らはエフライムの森に向かい、アブサロムの軍勢と戦う準備をしていた。ダビデは将軍たちに言った。「私のために、若者アブサロムを軽く扱ってくれ。」彼の言葉には父としての切なる願いが込められていた。将軍たちはその言葉を聞き、心に留めた。

戦いが始まった。エフライムの森は戦場となり、剣の音が響き渡った。ダビデの軍勢はアブサロムの軍勢を次々と打ち破り、敵は混乱に陥った。アブサロムは逃げようとしたが、彼の長い髪が樫の木の枝に絡まり、身動きが取れなくなってしまった。彼は宙吊りになり、馬だけが走り去っていった。

その様子を見た一人の兵士がヨアブに報告した。「アブサロムが樫の木に絡まっているのを見ました。」ヨアブは驚き、怒りを込めて言った。「なぜ彼をそのままにしておいたのか?私が銀貨十枚と帯一本を与えるから、彼を殺しておけばよかったのに。」しかし、その兵士は答えた。「たとえ千枚の銀貨をいただいても、私は王子に手をかけません。王が将軍たちに『若者アブサロムを軽く扱え』と命じられたのを聞きました。もし私が彼を殺していたら、王は必ず知り、あなたも私を責められたでしょう。」

ヨアブはその言葉を無視し、自ら三本の槍を手に取り、アブサロムの心臓を突き刺した。彼の若い命はそこで終わりを告げた。ヨアブの部下たちも集まり、アブサロムの体を樫の木から下ろし、深い穴に投げ入れ、その上に大きな石の山を積み上げた。それはアブサロムの死を象徴する墓となった。

戦いが終わり、ダビデは勝利の知らせを待っていた。彼は城門のそばに座り、使者が来るのを待ちわびていた。やがて、走って来る者の足音が聞こえた。それはアヒマアツという若い使者だった。彼はダビデの前にひれ伏し、「王様、主があなたの敵を打ち破られました」と告げた。しかし、ダビデの心は安らかではなかった。彼はアブサロムのことを尋ねた。「若者アブサロムは無事か?」

アヒマアツは答えに窮し、ただ「戦いが激しかったので、私は詳しいことはわかりません」と答えるしかなかった。その時、もう一人の使者、クシュ人が到着した。彼はダビデに言った。「王様、良い知らせがあります。主は今日、あなたに立ち向かう者たちをすべて打ち破られました。」ダビデは再び尋ねた。「若者アブサロムは無事か?」

クシュ人はためらうことなく答えた。「王の敵、そしてあなたに害を加えようとする者は、あの若者のように滅びるべきです。」その言葉を聞いたダビデは、深い悲しみに包まれた。彼は城門の上の部屋に上がり、泣きながら叫んだ。「わが子アブサロムよ、わが子よ、わが子アブサロムよ。もし私が代わりに死ねたなら、アブサロムよ、わが子よ、わが子よ!」

ダビデの悲しみは深く、彼の涙は止まらなかった。彼は息子を愛していたが、その愛は王国の安定と神の御心との間で引き裂かれていた。彼の心は痛み、彼の魂は砕けていた。しかし、彼は神の御心に従い、王国を守ることを選んだ。その選択は彼に大きな犠牲を強いたが、彼は神の前に正しく歩むことを選んだのである。

この物語は、人間の愛と責任、そして神の御心の間で揺れ動くダビデの姿を描いている。彼の悲しみは深く、彼の選択は重いものだったが、彼は神に従い、王国を守ることを選んだ。それは彼の信仰の証であり、彼が神の前に正しく歩んだことを示している。

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