聖書

「愚か者と知恵ある者の物語」

**伝道者の書10章に基づく物語**

太陽がエルサレムの丘の上に昇り、金色の光が王宮の大理石の柱を照らす頃、ソロモン王は広い庭園をゆっくりと歩いていた。彼の目には深い思索の影が浮かんでいた。彼は知恵に満ちた王であったが、この日、心に重くのしかかる現実を感じていた。

「愚かな者が高い地位に就くと、その過ちは多くの人々に災いをもたらす。」

彼はそうつぶやき、目の前に広がる都を見下ろした。街では人々が忙しく行き交い、商人たちが品物を並べ、役人たちが王の命令を執行していた。しかし、その中には愚かな判断を下す者もいれば、怠惰なために仕事を台無しにする者もいた。

### **愚かな者の過ち**

ある日、王宮に一人の若い役人が召し出された。彼は家柄が良く、言葉巧みであったため、王の側近としての地位を得た。しかし、彼の心には傲慢が潜んでいた。ある時、王が重要な決定を下そうとした際、この若者は自分の意見を押し通し、経験豊かな長老たちの助言を無視した。

「若さには勢いがあるが、知恵がなければ、それは災いの種となる。」

その結果、彼の判断は国に大きな損失をもたらした。農作物の取り決めを誤り、飢饉が起こりかけたのである。民は苦しみ、王の信頼は揺らぎ始めた。ソロモンは深く嘆き、こう思った。

「愚か者の言葉は多くの者を滅ぼす。彼の口は驕りに満ち、その舌は破滅を招く。」

### **知恵ある者の行動**

一方、王宮の庭園の管理人として働いていた一人の老人がいた。彼は長年、静かに自分の務めを果たし、草木の世話をしていた。彼は学問こそなかったが、経験から得た知恵を持ち、慎み深い性格であった。ある日、王が庭を歩いていると、この老人が丁寧に木の枝を剪定しているのを見た。

「なぜ、その枝を切るのか?」と王が尋ねると、老人は恭しく答えた。

「王様、この枝は今は勢いよく伸びていますが、放っておけば他の枝の成長を妨げ、やがて木全体を弱らせます。良い実を結ばせるためには、時には切り捨てる必要があるのです。」

その言葉に、ソロモンは深く感銘を受けた。老人の言葉は、国の統治にも通じる真理だった。

「知恵ある者は柔和な言葉を使い、その働きは堅く立つ。しかし、愚か者は怒りに任せて行動し、自ら墓穴を掘る。」

### **小さな過ちが大きな災いを招く**

ある時、都の門の近くで、一人の役人が些細なミスを犯した。彼は税金の記録を誤り、それを隠そうとした。最初は小さな過ちだったが、やがて嘘が嘘を呼び、ついには国庫に損害を与えるほどに膨れ上がった。

ソロモンはこれを知り、こう言った。

「愚か者の行いは、腐ったリンゴのように、周囲をすべて駄目にする。たとえ小さな過ちでも、放っておけば国を揺るがすほどの害となる。」

そして、王は公正な裁きを下し、正しい秩序を取り戻した。

### **終わりに**

日が沈み、王は再び宮殿の高台に立ち、遠く広がる国を見渡した。

「知恵は光のように人を導き、愚かさは闇のように人を迷わせる。人は皆、自分の行いの実を刈り取る。」

彼は静かに祈り、この教訓を心に刻んだ。そして、これからも国を正しく治め、神の前にふさわしい王であり続けようと決意したのである。

こうして、伝道者の言葉は代々に渡り、人々の心に知恵の灯をともし続けた。

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