**「解放の年」**
主がモーセを通してイスラエルの民に語られた言葉は、荒野を吹き渡る風のように、民の心に深く刻まれた。それは、七年ごとに訪れる「解放の年」についての掟であった。
シナイの山々が朝日に照らされ、黄金に輝くその日、モーセは民を集め、神の言葉を宣言した。
「七年目の終わりに、あなたがたは解放を宣言しなければならない。同胞の中に貧しい者がいれば、手を閉じてはならない。心をかたくなにしてはならない。むしろ、手を大きく開き、必要とするものをすべて与えなさい。」
人々は息を呑んだ。この掟は、単なる律法以上のもの――神の慈愛と正義が織り成す契約であった。
**貧しき者への憐れみ**
時は流れ、ヨルダン川の東にあるギルアデの地に、エリアサという名の男が住んでいた。彼は羊を飼う者で、神を畏れ、主の掟を守って生きていた。しかし、その隣人の中には、ナアマンという貧しい男がいた。ナアマンはかつて小麦を育てていたが、旱魃と蝗の災いで畑を失い、妻と三人の子供を養うために、ついにエリアサに自分自身を売り、奴隷となった。
七年目の春が近づいたある日、エリアサはナアマンを呼び、こう言った。
「主は七年目にすべての負債を赦し、奴隷を解放せよと命じておられる。お前も今日から自由の身だ。この羊の群れから十頭を選び、家族と共に新たな人生を歩むがよい。」
ナアマンは驚き、目に涙を浮かべた。「主人よ、私はあなたに借りがある。どうしてこのような恵みを……」
エリアサは微笑み、答えた。「主がわたしたちをエジプトの奴隷の家から解放してくださったように、わたしもお前を自由にする。これが神の掟だ。」
**試される信仰**
しかし、すべての者がエリアサのように従順ではなかった。ベテルに住むアデルという富んだ商人は、隣人に多額の銀を貸していたが、七年目が近づくと、心に迷いが生じた。
「もし負債を赦せば、私は損をする。神は本当にそれを求めておられるのか?」
彼は夜も眠れず、ついに隣人に銀を返済するよう迫った。その苛立ちは次第に怒りへと変わり、彼は律法学者たちを訪ね、解放の年の掟を無視する言い訳を探した。
しかし、その夜、アデルは夢を見た。
――エジプトの荒野で、イスラエルの民が飢えと渇きに苦しんでいた。すると、天からマナが降り、岩から水が湧き出た。神の声が響いた。「わたしはお前たちを養った。なぜ、お前は同胞を養わないのか?」
目を覚ましたアデルは、震える手で額の汗を拭った。翌朝、彼は急いで隣人の家を訪れ、こう言った。
「わたしの罪を赦してくれ。主がわたしたちに与えてくださった恵みを、わたしは隠していた。」そして、彼は負債の証文を破り捨て、解放を宣言した。
**神の祝福**
こうして、解放の年が訪れるごとに、イスラエルの民は神の慈愛を学んだ。主は彼らに約束された。
「もし、あなたがたがこの言葉に聞き従うなら、主は必ずお前たちを祝福し、すべての働きに豊かさを与えられる。貧しい者がいなくなることはないが、主はお前たちの手を開く者を決して見捨てられない。」
エリアサの羊の群れは増え、アデルの商売は以前よりも栄えた。ナアマンは自由を得て、再び畑を耕し、主に感謝の捧げ物をささげた。
荒野にも緑が芽吹くように、神の掟は人々の心に命を吹き込み、真の解放をもたらしたのである。