聖書

初穂の感謝と神の約束

**申命記26章に基づく物語:初穂の感謝**

イスラエルの民が約束の地に入ってから、最初の収穫の季節が訪れた。黄金色に輝く麦畑が風に揺れ、オリーブの木にはたわわに実がなっていた。ヨシュアに率いられた民は、それぞれの町や村で、神が与えてくださった豊かな実りに目を喜ばせた。

そのころ、シロの町に住むアビヤという名の農夫がいた。彼は長い荒野の旅を経験した世代の一人で、幼い頃から両親に「エジプトでの奴隷の苦しみ」や「神が紅海を二つに分け、昼は雲の柱、夜は火の柱で導いてくださった奇跡」を聞かされて育った。今、彼自身が約束の地で初めての収穫を迎え、胸が熱くなった。

「主が私たちに与えてくださったこの地の実り…。これはただの作物ではない。神の約束の成就だ」

アビヤは家族を集め、最も良く育った麦の束、ぶどうの房、オリーブの実を選び、きれいに編んだ籠に入れた。妻のミリアムは「この実りは、主の恵みなしには得られなかった」とつぶやき、幼い息子のエリアサは「お父さん、神様にどうやってお礼を言うの?」と目を輝かせた。

次の日、アビヤは籠を肩に、家族と共にシロの聖所へと向かった。道中、彼は父から聞いた言葉を思い出した。

**「我々の先祖は、滅びゆくアラム人であった。しかし、主は彼を導き出し、この地へと連れて来てくださった…」**

聖所に着くと、祭司が民を迎えていた。アビヤは籠を祭司の前に置き、ひざまずいて言った。

**「わたしは、主が与えてくださった地の実りの初穂を、今、ここに持って参りました。」**

祭司は籠を受け取り、祭壇の前に置いた。そして、アビヤは全イスラエルのために、先祖の信仰を告白した。

**「わたしの先祖は、流浪のアラム人でした。彼はわずかな人数でエジプトに下り、そこに寄留者となりました。しかし、エジプト人は私たちを虐げ、苦しい労働を強いました。そこで、私たちは主に叫び、主は私たちの声を聞き、その苦しみと労苦と圧迫をご覧になりました。そして、主は力強い御手と伸ばされた御腕、大いなる恐るべきことと、しるしと奇跡をもって、私たちをエジプトから導き出し、この乳と蜜の流れる地へ連れて来てくださいました。主よ、今、私はあなたが与えてくださった地の実りの初穂を、ここに持って来ました。」**

彼の言葉に続いて、祭司は籠を祭壇の前で振り動かし、主への奉納物とした。アビヤの家族も、周りに集まった民も、深く頭を垂れた。

その後、アビヤは家族や隣人たちと共に、聖所の前で祝宴を開いた。彼はレビ人や寄留者、孤児や寡婦を招き、神の恵みを共に分かち合った。人々は喜び、主を賛美した。

「主は真実なお方だ。約束を決して忘れず、私たちをこの地に導き、養ってくださる。」

この日、イスラエルの民は、単なる収穫の喜び以上のものを覚えた。それは、神の信実と、先祖から受け継がれた信仰の記憶だった。アビヤは息子のエリアサに言った。

「この恵みを決して忘れてはならない。主が私たちにしてくださったことを、次の世代にも語り継がなければならない。」

こうして、初穂の捧げものは、単なる儀式ではなく、神の救いの歴史を覚え、感謝を表す生きた信仰の行為となった。

(終わり)

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