**天国の子供と赦しの教え**
イエス・キリストがガリラヤの地を巡り、人々に神の国の福音を説いておられたとき、弟子たちがイエスのもとに近寄り、尋ねた。「先生、天の国では、いったいだれが一番偉いのでしょうか。」
その問いを聞いたイエスは、優しいまなざしで彼らを見つめ、一人の小さな子供を呼び寄せた。その子は頬を赤らめ、粗末な麻の衣をまとっており、足には埃がついていた。イエスはその子を自分たちの真ん中に立たせ、弟子たちに言われた。
「まことに、あなたがたに告げます。もしあなたがたが回心して、この子供のようにならなければ、決して天の国に入ることはできません。この子供のように自分を低くする者が、天の国で一番偉いのです。また、このような子供の一人を、わたしの名のゆえに受け入れる者は、わたしを受け入れるのです。」
弟子たちは互いに顔を見合わせ、心に深く刻みつけた。彼らはこれまで、力や地位を求めて争っていたが、イエスの言葉は彼らの価値観を根底から覆すものだった。
### **迷い出た羊のたとえ**
イエスはさらに語り続けられた。「あなたがたはどう思いますか。ある人に百匹の羊があり、そのうちの一匹が迷い出たとします。その人は、九十九匹を山に残しておいて、迷っている一匹を捜しに出かけないでしょうか。まことに、あなたがたに告げます。もしその羊を見つけたら、迷わずにいた九十九匹よりも、その一匹のことを喜ぶでしょう。同じように、これらの小さな者が一人でも滅びることは、天におられるあなたがたの父のみこころではないのです。」
イエスの声は慈愛に満ち、その目には迷える者たちへの深い憐れみが浮かんでいた。弟子たちは、神が一人の魂をも決して見捨てず、探し求めてくださることを悟った。
### **兄弟に対する赦し**
そのとき、ペテロが進み出て尋ねた。「主よ、兄弟が私に対して罪を犯した場合、何度まで赦すべきでしょうか。七度まででしょうか。」
イエスは彼を見つめ、深い意味を込めて答えられた。「七度まで、などとは言いません。七度を七十倍するまで、つまり、七十の七度までも赦しなさい。」
そして、イエスは彼らに一つのたとえを話された。
「天の国は、自分のしもべたちと清算をしようとした王のようです。清算が始まると、一万タラント(※莫大な金額)の借金のあるしもべが連れて来られました。しかし、彼は返済できなかったので、主人は彼とその妻子、すべての財産を売って返済するように命じました。
すると、そのしもべはひれ伏し、『どうか待ってください。必ず全部お返しします』と懇願しました。主人は憐れに思い、彼を赦し、借金を帳消しにしてやりました。
ところが、そのしもべが出て行くと、百デナリ(※わずかな金額)の借金をしている仲間のしもべを見つけ、彼の首を絞めて、『借金を返せ』と要求しました。仲間はひざまずき、『どうか待ってください。必ず返します』と懇願しましたが、彼は聞き入れず、その者を牢に投げ込ませました。
このことを聞いたほかのしもべたちは深く悲しみ、主人にすべてを告げました。主人はそのしもべを呼びつけ、言いました。『悪いしもべだ。おまえが懇願したとき、私はおまえの借金を全部赦してやったではないか。おまえも、仲間を赦してやるべきではなかったか。』そして、主人は怒って、彼を罰する者たちに引き渡したのです。」
イエスは静かに弟子たちを見渡し、言われた。「あなたがたも、それぞれ心から兄弟を赦さないなら、天のわたしの父も、あなたがたに同じようにされるでしょう。」
弟子たちはこの言葉に震え、互いの過ちを赦し合うことの大切さを悟った。彼らは、神の無限の赦しを思い、自分たちもまた、隣人に同じように寛大でなければならないと心に誓ったのである。
こうして、イエスは彼らに、謙遜と赦し、そして神の愛に生きる道を示されたのだった。