**申命記16章に基づく物語**
**「主の祭りを祝う日々」**
イスラエルの民がヨルダン川の東、モアブの野に宿営していた頃、モーセは神の言葉を携え、民の前に立った。日はゆっくりと西に傾き、黄金の光が荒野の砂塵を照らしていた。人々は老いも若きも、モーセの声に耳を傾けた。彼の声は深く、神の戒めを力強く伝えた。
**過越の祭り**
「覚えておきなさい。」モーセは語り始めた。「エジプトの地で、我々は奴隷であった。しかし、主は強大な御手をもって我々を導き出し、解放してくださった。その時、主は過越の夜に、エジプトの初子を撃たれたが、我々の家は小羊の血によって守られた。」
民の中には、その夜を覚えている長老たちもいた。彼らはうなずき、若い世代にその出来事を語り継いでいた。モーセは続けた。
「アビブの月(春の初め)に、主の過越の祭りを祝いなさい。その時、羊あるいは牛を屠り、主の選ばれる場所で、家族と共に食べなさい。種を入れないパン、苦菜を添えて、急いでエジプトを出たことを思い起こすのだ。」
人々は静かに聞き入った。過越の食事は単なる儀式ではなく、神の救いの記憶を新たにするためのものだった。モーセはさらに詳しく説明した。
「七日間、種なしパンを食べなさい。家からパン種を取り除き、すべてのわざわいから身を清めるのだ。初日と七日目には聖なる集会を開き、労働をしてはならない。」
**七週の祭り(シャブオット)**
過越の祭りから七週間が過ぎると、今度は「七週の祭り」がやってくる。モーセは人々に言った。
「畑から収穫した初穂を主に捧げなさい。それは、主があなたに与えられた祝福の証である。喜びをもって家族、僕、レビ人、寄留者と共に祝い、主の恵みを思い起こしなさい。」
人々は収穫の豊かさを思い浮かべた。小麦の穂が風に揺れ、ぶどうの木には実がたわわに実る。主が与えてくださった地の実りは、彼らの労苦の結果ではなく、神の慈しみによるものだった。
**仮庵の祭り(スコット)**
そして、秋の収穫の終わりには、「仮庵の祭り」が待っていた。
「あなたがたがエジプトを出た時、主は荒野で仮庵に住まわせ、守ってくださった。そのことを覚え、七日間、仮庵を作って住みなさい。収穫の喜びと共に、主の導きに感謝するのだ。」
子供たちは興味深そうに聞いていた。毎年、彼らは木の枝や葉で作った仮庵の中で過ごし、先祖の旅路を体験した。大人たちは、神がどれほど忠実に導いてくださったかを語り継いだ。
**主の選ばれる場所**
モーセは厳かに言った。
「これらの祭りを、主が御名を置くために選ばれる場所で守りなさい。ただ好きな場所で祝ってはならない。主の前に出る時、手ぶらで来てはならない。それぞれ、力に応じて捧げ物を携え、主を喜び祝うのだ。」
民は頷いた。祭りは単なる習慣ではなく、神との交わりの時であり、捧げ物は感謝の表現だった。
**正義と公平**
最後に、モーセは民に戒めた。
「裁判を行う時、決して不正を行ってはならない。賄賂に心を傾けず、弱い者を虐げてはならない。正義のみを追い求めなさい。そうすれば、主はあなたがたを祝福される。」
人々は神の律法の重みを感じた。祭りも、裁きも、すべては神との契約に基づくものだった。
**民の応答**
夕闇が迫る中、イスラエルの民は心に決めた。
「主が命じられた通りに行おう。」
彼らは祭りの日々を覚え、神の救いと導きを感謝し、正義を愛する者として歩むことを誓った。荒野の風が吹き抜け、神の言葉は彼らの心に深く刻まれた。
こうして、モーセは申命記16章の教えを民に伝え、主の祭りと正しい歩みを彼らに思い起こさせたのだった。