聖書

**エルサレム会議:異邦人と信仰の和解**

**使徒言行録15章:エルサレム会議**

エルサレムの空は、春の穏やかな光に包まれていた。オリーブ山から吹き下ろす風が、石畳の道を歩く人々の衣を軽やかに揺らした。街は活気に満ち、神殿の周りには巡礼者たちの声が響いていた。しかし、この聖なる都の一角では、初代教会の指導者たちが、信仰の未来を左右する重大な議論に没頭していた。

異邦人からの改宗者が増える中、ある問題が教会を揺るがせていた。「モーセの律法を守らなければ、救われないのではないか」という疑問である。ユダヤ人キリスト教徒の中には、異邦人信者にも割礼や律法の遵守を求める者たちがいた。この主張は、アンティオキアの教会で特に激しい対立を引き起こし、パウロとバルナバは、この問題をエルサレムの使徒たちと長老たちに委ねることにした。

### **議論の火蓋が切られる**

エルサレムの教会に集まったのは、使徒ペトロ、ヤコブ、ヨハネをはじめ、各地から来た長老たちであった。パウロとバルナバも同席し、異邦人の間で神が行われた驚くべき業について詳しく報告した。彼らは、異邦人が聖霊を受けたこと、信仰だけで心が清められたことを証言した。

すると、ファリサイ派から改宗したある者たちが立ち上がり、声を張り上げた。
「異邦人にも、割礼を受けさせ、モーセの律法を守るように命じるべきです!」

その瞬間、部屋の中に緊張が走った。長い沈黙の後、ペトロがゆっくりと立ち上がった。彼の目には、かつて自分が異邦人コルネリウスの家で経験した神の御業がよみがえっていた。

「兄弟たち、ご存じのとおり、神はずっと前に、あなたがたの間で、異邦人が私の口から福音の言葉を聞いて信じるようにと、御心を示されました。そして、人の心をご存じである神は、私たちと同じように異邦人にも聖霊を与え、彼らをも受け入れられたのです。私たちの先祖も私たちも、負いきれなかった律法の軛を、なぜ今、異邦人の弟子たちに課そうとするのですか? 私たちは、主イエスの恵みによって救われると信じているではありませんか。」

ペトロの言葉は、重く集会に響いた。彼の証言は、神が異邦人をも清めたという明白な事実に基づいていた。

### **パウロとバルナバの証言**

続いて、パウロとバルナバが立ち、異邦人の間で行われた奇跡としるしについて語った。彼らは、神が異邦人の信仰を認め、聖霊と力ある業をもって証しされたことを力強く伝えた。

「彼らは律法を知らずとも、信仰によって神の義を受けました。そして、聖霊の賜物を受けたのです。これは、神ご自身が彼らを認められた証拠ではありませんか?」

集会は深い黙想に包まれた。長老たちは、神の導きを求めつつ、互いの意見を交わした。

### **ヤコブの裁定**

ついに、主の兄弟ヤコブが立ち上がり、静かに語り始めた。彼は教会の指導者として重んじられ、知恵深い判断で知られていた。

「兄弟たち、私の意見を聞いてください。神が初めて異邦人を顧み、彼らの中から御名を信じる民を選ばれたことは、預言者たちの言葉と一致しています。アモス書にもこう書かれている通りです。
『その後、わたしは帰って来て、倒れたダビデの幕屋を建て直す。そして、廃墟と化したものを建て直し、それを元どおりにする。それは、残った人々が、わたしの名を呼ぶすべての異邦人と共に主を求めるようになるためである。』
ですから、異邦人の中から神に立ち帰る者たちを、これ以上煩わせるべきではないと思います。」

ヤコブは、異邦人信者に必要な最低限の規定を示した。
「ただ、偶像に供えた肉と、血、絞め殺した動物の肉、そしてみだらな行いを避けるように書き送るべきです。モーセの律法は、昔からどの町でも読まれ、安息日ごとに会堂で教えられてきたのですから。」

この提案は、全会一致で受け入れられた。異邦人信者に過重な負担を課さず、しかし、ユダヤ人信者との交わりを保つための配慮がなされたのである。

### **決定を携えて帰る**

教会は、この決定をアンティオキアの兄弟たちに伝えるため、ユダ(バルサバと呼ばれる者)とシラスを選び、パウロとバルナバと共に送り出した。彼らは、手紙を携え、エルサレムからの使節としての権威をもって旅立った。

アンティオキアに到着すると、教会は集まり、手紙を朗読した。その内容は、異邦人信者を励まし、和解をもたらすものだった。

「聖霊と私たちは、次の必要な事柄のほかは、一切あなたがたに重荷を負わせないことを決めました。すなわち、偶像に供えた肉と血と絞め殺した動物の肉、そしてみだらな行いを避けることです。これらのことを慎めば、それで結構です。」

これを聞いた異邦人信者たちは、大きな喜びに包まれた。彼らは、神の恵みが確かに自分たちにも及んでいることを確信し、さらに信仰に励まされた。

こうして、初代教会は、ユダヤ人と異邦人が一つの体として結ばれる道を歩み始めた。神の霊が導かれるままに、教会は新たな時代へと進んでいったのである。

LEAVE A RESPONSE

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です