**使徒パウロの証言―アグリッパ王の前で**
カイサリアの宮殿は、朝日を受けて大理石の柱が輝いていた。広間には、アグリッパ王とその姉妹ベルニケが豪華な衣装をまとい、玉座に座っていた。総督フェストゥスや高官たちが列席する中、鎖につながれた一人の男が連れ出された。彼の名はパウロ。かつてはユダヤ教の熱心な迫害者だったが、今はキリストの使徒として捕らえられていた。
パウロは静かに頭を上げ、王に向かって手を差し伸べた。
「アグリッパ王よ、ユダヤ人たちから訴えられているすべてのことについて、今日、あなたの前で弁明できることを幸いに思います。特に、あなたはユダヤ人の慣習や問題に詳しい方ですから、どうか私の話に忍耐をもって耳を傾けてください。」
王はわずかにうなずき、パウロは語り始めた。
**パウロの回心の物語**
「私は若い頃からエルサレムで過ごし、最も厳格なパリサイ派の教えに従って生きてきました。それは、今でもこの場にいる多くのユダヤ人がよく知っていることです。私は神に熱心に仕えるあまり、ナザレのイエスの名を信じる者たちを迫害し、牢に入れ、死に至らせさえしました。」
パウロの目には、過ぎ去った日の記憶がよみがえっていた。
「祭司長たちから権限を与えられ、ダマスコへ向かった時のことです。真昼ごろ、王よ、私は天からの光を見ました。それは太陽よりも強く輝き、私と同行していた者たちも地に打ち倒されました。そして、ヘブライ語で『サウロ、サウロ、なぜわたしを迫害するのか。とげのついた棒をけるのは、おまえにとって痛いことだ』という声を聞いたのです。」
パウロの声は震え、広間は静まり返った。
「私は『主よ、あなたはどなたですか』と尋ねると、その声は答えました。『わたしは、あなたが迫害しているイエスである。立ち上がりなさい。わたしがあなたに現れたのは、あなたがわたしの証人となるためだ。あなたは今日見たこと、そしてこれからわたしが示すことについて、すべての人々に伝える者となるのだ』と。」
**異邦人への使命**
「その時、主は私にこう告げられました。『わたしは、あなたをこの民と異邦人の中から救い出し、彼らに遣わす。彼らの目を開き、暗やみから光へ、サタンの支配から神へと立ち返らせ、わたしを信じる信仰によって、彼らに罪の赦しと聖なる者たちとの御国を受け継がせるためである』と。」
パウロはアグリッパ王をじっと見つめた。
「ですから、アグリッパ王よ、私はこの天からの啓示に従い、ダマスコでもエルサレムでも、ユダヤ全土で、また異邦人に対して、悔い改めと神への立ち返りを宣べ伝えてきました。そのためにユダヤ人たちは私を捕らえ、殺そうとしたのです。しかし、神は私を助け、今日に至るまで、小さな者にも大きな者にも、預言者たちとモーセが語ったことが実現することを証ししてきました。すなわち、キリストは苦しみを受け、死者の中から最初によみがえり、この民と異邦人に光を宣べ伝える者となる、ということです。」
**アグリッパ王の反応**
パウロの言葉が終わると、フェストゥス総督が大声で叫んだ。
「パウロ、おまえは気が狂っている! 学問のしすぎで正気を失ったのだ!」
しかし、パウロは冷静に答えた。
「フェストゥス閣下、私は狂ってなどいません。私は真実を、しかも道理にかなったことを語っているのです。アグリッパ王はこれらのことをよくご存じです。私は王がこのことをすべて信じておられると確信しています。なぜなら、この出来事のうち、一つとして王の目に隠されたものはないからです。」
そして、パウロは王に向かって力強く尋ねた。
「アグリッパ王よ、あなたは預言者たちを信じられますか。信じておられますね。」
アグリッパ王は少し笑い、皮肉を込めて言った。
「おまえはわずかな言葉で、私をキリスト者にしようとしているのか。」
パウロは深くうなずいた。
「それがわずかな言葉であろうと、多くの言葉であろうと、神の御前で、私の願いは、この場にいるすべての人が、この鎖ばかりか、私のようになることです!」
王と総督、ベルニケ、そして列席者たちは立ち上がり、互いにささやき合った。
「この男には死や投獄に値するようなことは何もない。」
アグリッパ王はフェストゥスに言った。
「もしこの男が皇帝に上訴していなければ、釈放できたであろうに。」
こうして、パウロのローマへの旅が決まったのだった。神の御計画は、彼を異邦人の王たちの前に立たせ、福音を伝えさせるため、さらに前へと進んでいった。