**使徒行伝5章:アナニアとサッピラ、そして使徒たちの勇気**
エルサレムの町は、初代教会の熱気に包まれていた。信者たちは心を一つにし、すべての物を共有し、貧しい者たちに分け与えるという愛の交わりを実践していた。その中で、バルナバのような人物は畑を売り、その代金を使徒たちの足もとに置き、教会全体のために献げた。人々の心には聖霊の力が満ち、神の恵みが豊かに注がれていた。
しかし、そのような純粋な信仰の共同体の中に、偽りと貪欲が忍び込もうとした。アナニアという男とその妻サッピラも、土地を売ったが、代金の一部を自分のために残し、残りを持って来て、あたかも全額を献げたかのように装った。彼らの心はサタンに満たされ、聖霊を欺こうとしたのである。
ペテロは、アナニアが献金を置いた瞬間、神からの啓示を受け、鋭く問いた。
「アナニアよ、なぜサタンがあなたの心を満たし、聖霊を欺いて、地所の代金の一部を自分のために残したのか? 売らないうちは、あなたの物ではなかったか? また、売ってからも、あなたの自由になるはずではなかったか。どうしてこのようなことをする気になったのか。あなたは人を欺いたのではなく、神を欺いたのだ。」
その言葉が終わらないうちに、アナニアは倒れ、息絶えてしまった。これを見た若者たちは彼を包み、葬りに出た。
約三時間後、アナニアの妻サッピラが、この出来事を知らずにやって来た。ペテロは彼女に試すように尋ねた。
「あの地所は、これだけの金額で売ったのか?」
サッピラは即座に答えた。
「はい、それだけです。」
するとペテロは言った。
「なぜあなたがたは心を合わせて主の霊を試みたのか。見よ、あなたの夫を葬った者たちの足が、戸口に達している。彼らはあなたをも運び出すだろう。」
たちまちサッピラもペテロの足もとに倒れ、息が絶えた。若者たちが入って来て、彼女も葬り、夫のそばに埋めた。
この事件は、教会全体に大きな恐れを引き起こした。神の聖さと裁きの現実を、誰もが深く覚えたのである。
しかし、使徒たちの働きはますます力強くなった。人々はこぞってソロモンの廊に集まり、病人を担ぎ出し、ペテロの影さえも病人の上にかかることを願った。近隣の町々からも、病人や汚れた霊に苦しむ者が次々と運ばれて来たが、彼らは一人残らず癒された。
このような力あるわざを見て、大祭司とサドカイ人たちは嫉妬に燃え、使徒たちを捕らえ、牢に入れた。しかし、主の使いが夜のうちに牢の戸を開け、彼らを連れ出し、
「行って、宮の庭に立ち、この命の言葉を、残らず人々に語れ。」
と命じた。使徒たちは夜明け前に宮に入り、教え始めた。
朝になり、最高法院は議員たちを召集したが、牢には誰もいなかった。ちょうどその時、使いが来て報告した。
「あなたがたが牢に入れた者たちが、宮に立って民を教えています!」
守衛長は使徒たちを連れて来たが、乱暴を恐れ、人々に石で打たれるのを避けるため、丁重に扱った。
大祭司は彼らを問いただした。
「私たちは、あの名によって教えてはならないと、厳しく命じたではないか。それなのに、あなたがたはエルサレム中に教えを広め、あの男の血の責任を私たちに負わせようとしている!」
するとペテロと使徒たちは、聖霊に満たされ、大胆に答えた。
「人に従うより、神に従うべきです。あなたがたが十字架にかけて殺したイエス、神はこの方をよみがえらせ、私たちがこれらのことを証しするために、ご自身の右に上げられました。神はイエスを、君主また救い主として、イスラエルに悔い改めと罪の赦しをお与えになったのです。私たちはこれらのことの証人です。神がご自身に従う者に与えてくださる聖霊もまた、証ししておられます。」
最高法院の人々はこれを聞いて激怒し、使徒たちを殺そうと相談した。しかし、民の間で尊敬されていたガマリエルという律法の教師が立ち上がり、慎重に語った。
「イスラエルの皆さん、この人たちをどう扱うか、よく考えてください。もしこの計画や働きが人間から出たものなら、自滅するでしょう。しかし、もし神から出たものなら、あなたがたは彼らを滅ぼすことができず、神に逆らう者となるかもしれません。」
最高法院は彼の意見に従い、使徒たちを鞭打ってから釈放し、二度とイエスの名によって語ってはならないと命じた。しかし、使徒たちは最高法院を出ると、喜びにあふれていた。なぜなら、彼らはイエスの名のために辱められるに値する者とされたからである。そして、毎日、宮でも家々でも、イエスがキリストであることを教え続けた。
こうして、神の言葉はますます広まり、弟子の数はエルサレムで大きく増えていった。主の御手が彼らとともにあったのである。