**愛に生きる者たち**
ある静かな夕暮れ、エフェソスの町の外れにある小さな集会所で、ヨハネは年老いた体を支えながら、集まった信徒たちに向かって語りかけていた。外ではオリーブの木々がそよ風に揺れ、遠くからは地中海の波の音がかすかに聞こえてきた。彼の声は弱々しくも、深い慈愛と確信に満ちていた。
「子どもたちよ。」とヨハネは言った。「父なる神がどれほど私たちを愛してくださったか、思い起こしなさい。私たちは、神の子どもと呼ばれるほどに、その愛を受けているのです。」
集まった人々は、貧しい者も、富める者も、かつては罪に縛られていた者も、皆、ヨハネの言葉に耳を傾けた。彼らの目には、この使徒がイエスと共に歩んだ日々の記憶がよみがえっていた。ヨハネは続けた。
「しかし、世は私たちを知りません。なぜなら、世は神を知らないからです。愛する者たち、今すでに私たちは神の子どもです。しかし、どのような者になるのか、まだ明らかにはされていません。しかし、キリストが現れたとき、私たちは彼に似た者となることを知っています。」
集会所の奥で、一人の若い女性が涙を浮かべていた。彼女はかつて、偶像礼拝に深く関わり、人を欺く生活を送っていた。しかし、今はキリストの愛に触れ、新しく生まれ変わったのだ。ヨハネは彼女を見つめ、優しく微笑んだ。
「すべてキリストにこの望みを抱く者は、自らを清めます。ちょうどキリストが清い方であるように。」
夜が更けるにつれ、ランプの炎がゆらめき、壁に長い影を落とした。ヨハネの声は次第に力強くなっていった。
「罪を犯す者は、法に逆らう者です。罪とは、まさに法に逆らうことなのです。そして、あなたがたも知っているように、キリストが現れたのは、罪を取り除くためです。キリストには、何の罪もありません。キリストの内にとどまる者は、罪を犯しません。罪を犯し続ける者は、キリストを見たことも、知ったこともない者です。」
すると、集会所の隅にいた一人の男が震える声で尋ねた。
「先生、では、もし私たちが再び罪を犯してしまったら…私たちは神の子どもではなくなってしまうのでしょうか?」
ヨハネの目に深い悲しみが浮かんだ。彼はゆっくりと答えを返した。
「子どもたちよ、だれにも惑わされてはいけません。正しい行いをする者は、キリストと同じように正しい者です。しかし、罪を犯す者は、悪魔に属する者です。悪魔は初めから罪を犯しているからです。神の子が現れたのは、悪魔のしわざを打ち砕くためです。」
「しかし、覚えなさい。」とヨハネは言葉を続けた。「神から生まれた者は、罪を犯しません。神の種がその人の内にとどまっているからです。その人は、神から生まれた者なので、罪を犯すことができないのです。ここに、神の子どもと悪魔の子との区別があります。正しい行いをしない者は、神に属していません。兄弟を愛さない者も同様です。」
その瞬間、集会所の空気が一変した。人々は互いの顔を見つめ、心に迫る重い問いを感じた。自分は本当に兄弟を愛しているだろうか? 隣人を自分のように大切にしているだろうか?
ヨハネは彼らの心の動揺を見逃さなかった。
「私たちは、兄弟を愛していることによって、死から命へと移ったことを知っています。愛さない者は、死のうちにとどまります。自分の兄弟を憎む者は皆、人殺しです。そして、人殺しのうちに、永遠の命はとどまらないことを、あなたがたは知っています。」
「愛とは何でしょう?」とヨハネは問いかけた。「キリストが私たちのために命を捨ててくださったこと、これこそ愛です。ですから、私たちも兄弟のために命を捨てるべきです。」
集会所の外では、夜風が強くなり、オリーブの葉がさらさらと音を立てた。ヨハネの言葉は、彼らの心に深く刻まれていった。
「もし、この世の富を持ちながら、兄弟が困っているのを見て、心を閉ざすなら、どうして神の愛がその人の内にとどまっているでしょう? 子どもたちよ、言葉や口先だけで愛するのではなく、行いと真実をもって愛しましょう。」
やがて、夜明けの光が東の空に差し始めた。人々は、ヨハネの言葉を胸に、静かに立ち上がった。彼らは互いに抱き合い、固い決意を新たにした。
「神の前に心が安らぐなら、私たちは神に願うものを何でもいただきます。なぜなら、私たちは神の戒めを守り、神の御心に適うことを行っているからです。神の戒めとは、神の子イエス・キリストの名を信じ、キリストが私たちに命じられたように、互いに愛し合うことです。」
ヨハネは最後に、皆を祝福するように両手を広げた。
「神の戒めを守る者は、神の内にとどまり、神もその人の内にとどまってくださいます。私たちは、神が私たちに与えてくださった霊によって、神が私たちの内にとどまっておられることを知っています。」
こうして、彼らは新たな愛と信仰をもって、それぞれの道へと散っていった。ヨハネの言葉は、彼らの心に深く根を下ろし、やがて多くの実を結ぶことになるのだった。