**燃える柴の中の神の召命**
荒野の風がそよぎ、砂漠の熱気が立ち込めるホレブの山のふもとで、モーセは羊の群れを導いていた。彼はミデヤンの祭司、エテロの婿となり、静かな牧畜の生活を送っていた。かつてエジプトの王宮で学んだすべてを捨て、今は孤独な羊飼いとして日々を過ごしていた。
その日も、モーセは群れを連れて荒野を進み、神の山と呼ばれるホレブに近づいた。すると、突然、彼の目に不思議な光景が飛び込んできた。一本の柴の茂みが燃え上がっているのだ。しかし、炎は枝葉を食い尽くすことなく、燃え続けていた。
「なぜこの柴は燃え尽きないのか……?」
好奇心に駆られたモーセは道を外れ、その不思議な光景に近づいた。すると、燃える茂みの中から、彼の名を呼ぶ声が響いた。
**「モーセよ、モーセよ。」**
彼は震えながら答えた。
「はい、ここにおります。」
すると、声は続けた。
**「ここに近づいてはならない。あなたの立っている場所は聖なる地である。足から履物を脱ぎなさい。」**
モーセは畏れに打たれ、すぐにサンダルを脱いだ。砂の熱さを感じながらも、彼は顔を伏せた。神が彼に語りかける——かつてアブラハム、イサク、ヤコブに語りかけたように。
**「わたしはあなたの父の神、アブラハムの神、イサクの神、ヤコブの神である。」**
モーセは顔を隠した。神を見ることはできないと信じていたからだ。しかし、神の声はさらに力強く響いた。
**「わたしは、エジプトで苦しむわたしの民の叫びを見、その呻きを聞いた。わたしは彼らを救い出すために降りてきた。さあ、わたしはあなたをエジプトの王のもとに遣わす。あなたは、わたしの民イスラエルをエジプトから導き出さなければならない。」**
モーセの心は激しく揺れた。
「わたしなど、どうしてファラオのもとに行けましょうか。どうしてイスラエルを導き出せましょうか。」
神は答えられた。
**「わたしが必ずあなたと共にいる。これが、わたしがあなたを遣わす証拠である。あなたが民をエジプトから導き出したとき、あなたたちはこの山で神に仕えるであろう。」**
しかし、モーセはなおも問うた。
「彼らが『あなたを遣わした神の名は何か』と尋ねたら、何と答えればよいでしょうか。」
その時、燃える柴の中から響く声は、天地を揺るがす宣言をした。
**「わたしはある。わたしはあるという者だ。」**
そしてさらに、
**「イスラエルの人々にこう言いなさい。『わたしはあるという方が、わたしをあなたたちに遣わされた』と。」**
神は続けて、モーセに民を導くための約束と指示を与えた。長老たちを集め、エジプトの王に会い、イスラエルの解放を求めるように命じた。しかし、モーセの心にはまだ疑いがあった。
「彼らがわたしを信じず、『主はあなたに現れなかった』と言うかもしれません。」
すると、神は彼の杖を取り、地面に投げるよう命じた。モーセが従うと、杖はたちまち蛇に変わった。彼が恐れて逃げると、神は言われた。
**「手を伸ばして、尾をつかみなさい。」**
モーセがそうすると、蛇は再び杖に戻った。
さらに神は、彼の手を懐に入れるよう命じた。引き出してみると、手は重い皮膚病に冒され、雪のように白くなっていた。再び手を懐に入れると、元の肌に戻った。
**「もし彼らが最初のしるしを信じなければ、次のしるしを信じるだろう。それでも聞き入れないなら、ナイル川の水を取って地面に注ぎなさい。それは血に変わる。」**
しかし、モーセはなおも言った。
「主よ、わたしは弁が立ちません。昔から、言葉に不自由な者です。」
神は彼に答えられた。
**「口を授けたのはだれか。耳や目を造ったのはだれか。わたしがあなたの口と共にあって、語るべきことを教える。」**
それでもモーセは拒み、代わりを求めた。すると、神は怒りを表しつつも、彼の兄アロンが彼の代弁者となることを許した。
こうして、モーセは神の力強い約束を胸に、エジプトへと向かう決意を固めた。燃える柴の炎は消えることなく、神の臨在が彼と共にあることを示していた。
モーセは再びサンダルを履き、杖を手に取った。彼の心には、神の言葉が深く刻まれていた。
**「わたしはある。わたしは必ずあなたと共にいる。」**
そして、荒野を後にしたモーセの背中には、神の栄光が注がれていた。