聖書

「オリーブ山の約束と希望の言葉」

**ヨハネによる福音書 第16章**

イエスはオリーブ山のふもとで、弟子たちと共に過ごしていた。日はすでに傾き、長い影が地面に伸びていた。彼らは静かな場所に腰を下ろし、イエスの言葉に耳を傾けていた。弟子たちの心には不安がよぎっていた。イエスが近い将来、彼らを去ることをほのめかしていたからだ。

「わたしがこれらのことを話したのは、あなたがたがつまずくことのないためである。」イエスは深い慈愛に満ちた目で弟子たちを見つめながら言われた。「人々はあなたがたを会堂から追い出すだろう。しかも、あなたがたを殺す者が、神に仕えているのだと思い込む時が来る。」

弟子たちは息をのんだ。彼らはこれまで、イエスと共にいて、人々から歓迎されることもあれば、反発されることもあった。しかし、会堂から追い出され、命までも狙われるとは……。ペトロの眉間に深い皺が寄り、トマスは不安げに地面を見つめた。

「彼らがこのようなことをするのは、父をもわたしをも知らないからだ。」イエスの声は静かながらも力強かった。「しかし、わたしがこれらのことを今話しておくのは、その時が来たとき、あなたがたがわたしの言葉を思い出し、信仰を保つためである。」

夜風がそよぎ、オリーブの木々の葉がかすかに揺れた。弟子たちの心にも、イエスの言葉が静かに染み込んでいった。

イエスはさらに続けられた。「初めはわたしがあなたがたにこれらのことを話さなかった。それは、わたしがあなたがたと共にいたからだ。しかし今、わたしを行かせる方のもとに行こうとしている。そのため、あなたがたはわたしの行く道を知っていると、だれひとり尋ねない。」

フィリポがもだえるように口を開いた。「主よ、どこに行かれるのですか?」

イエスは優しく微笑まれた。「わたしが去ることは、あなたがたにとって悲しみで満たされる。しかし、わたしは真実を言う。わたしが去ることは、あなたがたにとって益なのだ。もしわたしが去らなければ、助け主があなたがたのところに来ることはない。しかし、わたしが去れば、わたしは彼をあなたがたにつかわす。」

弟子たちは互いに顔を見合わせた。助け主……それはいったい誰なのか?

イエスは彼らの疑問を読み取るかのように言われた。「その方が来られると、罪について、義について、さばきについて、世の誤りを明らかにされる。罪についてとは、彼らがわたしを信じないからである。義についてとは、わたしが父のもとに行き、あなたがたがもはやわたしを見なくなるからである。さばきについてとは、この世の支配者がさばかれたからである。」

ヨハネが胸に手を当て、深く息を吸った。イエスの言葉は重く、しかし確かな希望を含んでいた。

「わたしには、あなたがたに話すべきことがまだ多くある。しかし、今のあなたがたには耐えられない。」イエスの目には深い悲しみが浮かんだ。「しかし、真理の御霊が来られると、あなたがたをすべての真理に導かれる。その方は自分から語るのではなく、聞かれたことを語り、また、これから起こることをあなたがたに示される。」

夜の闇が深まり、星々が静かに輝き始めた。弟子たちの心はイエスの言葉で満たされていたが、まだ理解しきれない部分も多かった。

「御霊はわたしの栄光を現される。わたしのものを受けて、あなたがたに知らせるからだ。」イエスの声はますます力強くなった。「父が持っておられるものはすべて、わたしのものである。だから、わたしは、御霊がわたしのものを受けて、あなたがたに知らせると言ったのである。」

しばらくの沈黙が流れた後、イエスは弟子たちを見つめ、最後の励ましを与えられた。「しばらくすれば、あなたがたはもうわたしを見なくなる。しかし、またしばらくすれば、わたしに会える。」

弟子たちの間にざわめきが起こった。「『しばらくすれば見なくなり、またしばらくすれば会える』とは、どういうことでしょうか?」と互いにささやき合った。

イエスは彼らの混乱を優しく受け止められた。「まもなく、あなたがたは泣き、嘆く。しかし、世は喜ぶ。あなたがたは悲しむが、その悲しみは喜びに変わる。」

そして、譬えを話された。「女が子を産むとき、苦しみがある。しかし、子供が生まれたら、その喜びのために、もはや苦しみを覚えない。同じように、今はあなたがたも悲しんでいる。しかし、わたしは再びあなたがたと会い、あなたがたの心は喜びに満たされる。その喜びを、だれも奪うことはできない。」

イエスの言葉は、まるで暗闇の中に灯されたともしびのようだった。弟子たちの心に、確かな希望が芽生え始めた。

「その日には、あなたがたはもはや、わたしに何も尋ねない。」イエスは確信に満ちた声で言われた。「まことに、まことに、あなたがたに告げる。あなたがたが父に求めるものは、わたしの名によって与えられる。今まで、あなたがたはわたしの名によって求めたことはない。求めなさい。そうすれば、受ける。そして、あなたがたの喜びが満ちあふれるようになる。」

弟子たちは深くうなずいた。イエスの言葉は、彼らの心に深く刻み込まれていった。

「わたしはこれらのことを譬えで話したが、もはや譬えでは話さない。父についてはっきりと知らせる時が来る。」イエスは天を仰ぎ、父なる神に思いを馳せながら言われた。「その日には、あなたがたはわたしの名によって求める。わたしは、あなたがたのために父に求めるとは言わない。父ご自身が、あなたがたを愛しておられるからだ。あなたがたがわたしを愛し、わたしが神から出たことを信じたからである。」

イエスは静かに立ち上がり、弟子たちを見渡された。「わたしは父のもとから出て、この世に来た。そして再びこの世を去り、父のもとに行く。」

弟子たちはイエスの言葉を受け止め、心に留めた。彼らはまだすべてを理解できなかったが、イエスが父なる神のもとへ帰り、そして再び彼らと共にいてくださるという約束を信じた。

「見よ、あなたがたは今は悲しんでいる。しかし、わたしは再びあなたがたと会う。そして、あなたがたの心は喜び、その喜びはだれも奪うことができない。」

イエスの言葉は、彼らの心に深く響いた。夜の闇の中、彼らはこの約束を胸に刻み、やがて来る日の希望を抱いた。

そして、イエスは最後に力強く宣言された。「これらのことを話したのは、あなたがたがわたしによって平安を持つためである。世にあっては苦難がある。しかし、勇気を出しなさい。わたしはすでに世に勝ったのだ。」

弟子たちは静かにうなずき、イエスの言葉を心に刻み込んだ。彼らは知っていた。たとえこれから困難が待ち受けていようとも、イエスが共にいてくださることを。そして、その約束こそが、彼らにとって何よりも確かな支えとなることを。

こうして、オリーブ山のふもとで交わされたイエスの言葉は、弟子たちの心に深く根を下ろし、やがて全世界に広がる福音の礎となっていった。

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