聖書

「イエスの癒しと教え:ルカによる福音書第8章」

**ルカによる福音書 第8章**

イエスはガリラヤの村から村へと巡り歩き、神の国の福音を宣べ伝え、癒しの御業を行われた。大勢の群衆がイエスに従い、人々は神の言葉に耳を傾けるため、あらゆる町から集まってきた。

ある日、イエスはカペナウムの町を訪れ、大勢の人々が湖畔に集まっているのを見られた。群衆は押し寄せ、イエスの言葉を聞こうとしていた。そこでイエスは、岸辺に停めてあるペテロの舟に乗り、少し沖へと進まれた。そして舟の上から群衆に向かって、たとえを用いて教え始められた。

「種を蒔く人が種蒔きに出かけた。蒔いているとき、ある種は道端に落ち、人に踏みつけられ、空の鳥が食べてしまった。また、ある種は岩の上に落ち、芽を出したが、水分がなく枯れてしまった。ほかの種は茨の中に落ち、茨も一緒に伸びて、押しつぶしてしまった。しかし、良い地に落ちた種は、百倍の実を結んだ。」

弟子たちはこのたとえの意味が分からず、イエスに尋ねた。「先生、このたとえはどういう意味でしょうか。」

イエスは彼らに答えられた。「あなたがたには神の国の奥義が知らされているが、ほかの人々にはたとえで語られる。それは、『彼らが見ていても見えず、聞いていても悟らない』ためである。種は神の言葉である。道端に落ちたのは、聞いても悪魔が来て、その言葉を奪い去り、信じて救われることがない人々だ。岩の上に落ちたのは、喜んで受け入れても、試練が来るとすぐに信仰を捨てる人々である。茨の中に落ちたのは、人生の思い煩いや富や快楽にふさがれて、実を結ばない人々だ。しかし、良い地に落ちたのは、立派な心で神の言葉を聞き、それを堅く守り、忍耐して実を結ぶ人々である。」

その後、イエスは彼らに別のたとえを語られた。「ともし火をともして、升の下や寝台の下に置く者はない。燭台の上に置く。隠れているもので、現れないものはなく、秘密にされたもので、知られずに済むものはない。だから、聞く耳のある者は聞きなさい。」

イエスがこれらのことを語っておられると、突然、激しい突風が湖を襲い、舟は波に飲まれそうになった。弟子たちは恐怖に駆られ、イエスを起こして叫んだ。「先生、先生、私たちは溺れそうです!」

イエスは起き上がり、風と荒波を叱りつけられると、たちまち凪になった。そして弟子たちに言われた。「あなたがたの信仰はどこにあるのか。」

彼らは恐れ驚き、互いに言った。「この方はいったいどなたなのだ。風や波までが従うとは。」

舟がゲラサ人の地方に着くと、墓に住む悪霊に憑かれた男がイエスに出会った。この男は長い間、衣服を身に着けず、家に住まず、墓場で暮らしていた。彼を見た人々は鎖で縛ろうとしたが、彼はその鎖を引きちぎり、悪霊に駆り立てられて荒れ野へと逃げ込んでいた。

イエスが彼に「お前の名は何というのか」と尋ねられると、悪霊は「レギオン(多くの意)です」と答えた。彼の中には多くの悪霊が入り込んでいたのである。悪霊たちは、イエスが自分たちを底知れぬ深みに追いやらないよう、豚の群れに入ることを許してほしいと願った。イエスがそれを許されると、悪霊たちはその男から出て、豚の中に入った。すると、二千頭ほどの豚の群れが崖から湖へと駆け下り、溺れ死んでしまった。

豚の番をしていた者たちはこの出来事を見て逃げ出し、町や村に知らせた。人々は様子を見に来て、悪霊から解放された男がイエスの足もとに座り、正気に返っているのを見て恐れた。そして、イエスにこの地方から出て行ってほしいと頼んだ。

イエスが舟に戻られると、解放された男は「私も一緒について行かせてください」と願った。しかし、イエスは言われた。「家に帰り、神があなたにしてくださったことをすべて語りなさい。」男は町中で、イエスが自分にしてくださったことを宣べ伝えた。

その後、イエスは再びカペナウムに戻られた。すると、会堂長ヤイロという人がやって来て、イエスの足もとにひれ伏し、12歳の娘が死にかけているので、来て癒してほしいと懇願した。イエスは彼と共に向かわれたが、群衆が押し寄せてきた。

そのとき、12年間も長血を患っていた女がいた。彼女は医者にすべての財産を使い果たしたが、だれも治すことができなかった。彼女は「イエスの服に触れさえすれば癒される」と思い、群衆の中に紛れ込み、イエスの衣の端に触れた。すると、たちまち出血が止まった。

イエスは振り返って言われた。「わたしに触れたのはだれか。」

一同は否定したが、ペテロが「先生、群衆が押し合っています」と言うと、イエスは「だれかがわたしに触れた。力がわたしから出て行ったのを感じた」と言われた。

女は隠しきれずに震えながら進み出て、触れたことを告白した。イエスは彼女に言われた。「娘よ、あなたの信仰があなたを救った。安心して行きなさい。」

その間に、ヤイロの家から人が来て、「娘さんは亡くなりました。もう先生を煩わせるには及びません」と言った。イエスはこれを聞き、ヤイロに言われた。「恐れることはない。ただ信じなさい。そうすれば、娘は救われる。」

イエスはペテロ、ヨハネ、ヤコブと、娘の両親だけを連れて家に入られた。人々は泣き叫んでいたが、イエスは「泣くことはない。子供は死んだのではない。眠っているのだ」と言われた。人々はイエスをあざ笑った。

イエスは少女の手を取って「タリタ、クム(少女よ、起きなさい)」と言われた。すると、少女の霊が戻り、すぐに起き上がって歩き出した。イエスは両親に食べ物を与えるように言われた。そして、このことをだれにも話さないよう命じられたが、両親はこの驚くべき出来事を隠しきれず、周囲に知らせた。

こうして、イエスの御業はますます広まり、人々は神の国の力を目の当たりにしたのである。

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