聖書

「ぶどう園の労働者と神の恵みのたとえ」

**「ぶどう園の労働者たちのたとえ」**

イエスがエルサレムへと向かわれる途中、弟子たちと共にガリラヤの道を進んでいたとき、群衆が集まってきた。その中には、神の国のことをもっと知りたいと願う人々や、イエスの教えに心を惹かれた人々がいた。イエスは彼らを見つめ、深い慈愛に満ちた声で、天の国の奥義を語り始められた。

「天の国は、ある家の主人が、早朝、ぶどう園で働く労働者を雇いに出かけるようなものです。」

そのとき、東の空がわずかに明るみ始める頃、主人は清涼な朝の空気を胸いっぱいに吸い込み、市場へと向かった。すでにそこには、日雇いの仕事を待つ男たちが集まっていた。彼らの目には、一日の糧を得たいという切実な願いが浮かんでいた。主人は彼らに声をかけ、『一日一デナリの約束で、私のぶどう園で働いてくれないか』と尋ねた。男たちは喜んでうなずき、主人に従って緑豊かなぶどう畑へと向かった。

三時間ほど経った頃、主人は再び市場へ出かけた。今度は、日が高く昇り、暑さが厳しくなり始めていた。そこにはまだ仕事に就けず、不安そうに立ち尽くす男たちがいた。主人は彼らに言った。『ぶどう園へ行きなさい。正当な報酬を支払おう。』男たちは希望を取り戻し、すぐに働きに出かけた。

正午過ぎにも、また午後の三時ごろにも、主人は市場へ行き、同じように働き手を求める者たちを見つけ、ぶどう園へと招き入れた。そして、夕方の五時ごろ、主人は再び市場を訪れた。すると、まだそこには、一日中誰にも雇われず、疲れ果てて座り込んでいる男たちがいた。主人は彼らに尋ねた。『なぜ、一日中ここに立っていたのか?』彼らはうつむきながら答えた。『だれも雇ってくれなかったのです。』主人は深く憐れみ、『あなたがたもぶどう園へ行きなさい。』と言われた。

日が沈み、ぶどう園の仕事が終わると、主人は管理人に命じた。『労働者たちを呼び、最後に来た者から順に賃金を支払いなさい。』最初に、夕方に雇われた者たちが進み出た。彼らはわずか一時間しか働いていなかったが、なんと一人に一デナリを受け取った。それを目にした最初に雇われた者たちは、『自分たちはもっと多くもらえるに違いない』と期待した。しかし、彼らも同じく一デナリを受け取った。

すると、彼らの中から不満の声が上がった。『この最後の者たちはたった一時間働いただけなのに、私たちは一日中、暑さと疲労に耐えて働きました。それなのに、同じ報酬とは不公平です。』

主人はそのうちの一人に穏やかに答えた。『友よ、私はあなたに不正を働いたわけではない。あなたは一デナリで働くことに同意したではないか。自分の分を受け取り、帰りなさい。私はこの最後の者にも、あなたと同じように支払いたいのだ。私のものを私の好きに使うことが、いけないというのか。それとも、私の寛大さをねたむのか。』

イエスは群衆を見つめ、静かに語り続けられた。

「このように、後の者が先になり、先の者が後になることがある。神の国では、すべてが神の恵みによるのです。」

弟子たちはこの話を聞き、神の恵みの深さに驚いた。イエスはさらに言われた。「わたしが来たのは、正しい人を招くためではなく、罪人を招くためです。神の愛は、人の思いを超えたものであり、すべての人に開かれているのです。」

こうして、群衆は神の国の奥深い真理に触れ、それぞれの心に思いを巡らせながら、静かに散って行った。

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