聖書

「十二弟子の使命と神の約束」

**イエスの十二弟子の派遣**

その日、ガリラヤの丘には柔らかな風が吹き、オリーブの木々がかすかに揺れていた。イエスは十二人の弟子たちを呼び集め、彼らに悪霊を追い出し、あらゆる病や弱さを癒す権威をお与えになった。弟子たちの目は期待と畏れで輝いていた。彼らはこれまで、イエスの奇跡を間近で見てきたが、今や自分たちがその力を行使する側に立とうとしていた。

イエスは深い慈愛に満ちた声で語り始めた。「異邦人の道に行ってはならない。また、サマリヤ人の町に入ってはならない。むしろ、イスラエルの家の失われた羊のところに行きなさい。」その言葉は、神の選民であるイスラエルへの特別な使命を示していた。弟子たちはうなずき、心に刻み込んだ。

「行って、『天の御国が近づいた』と宣べ伝えなさい。」イエスの声は力強く、弟子たちの心を奮い立たせた。彼らは無償で与えられた力を、無償で与えるように命じられた。「あなたがたは、ただで受けたのだから、ただで与えなさい。」金銭や物資に頼らず、神の導きにすべてを委ねるようにと教えられたのだ。

しかし、イエスは彼らに現実的な助言も与えた。「旅のために袋も、二枚の下着も、履物も、杖も持って行ってはならない。」この言葉は、神が彼らの必要を満たしてくださるという信仰を試すものであった。弟子たちは互いを見つめ、不安と信頼が入り混じった表情を浮かべた。

「どこででも、ふさわしい人を見つけたら、その人が去るまで、そこに滞在しなさい。」イエスはさらに続けた。弟子たちは、受け入れられる家と拒まれる家があることを覚悟しなければならなかった。彼らの使命は平和をもたらすことだが、もし家や町が彼らを受け入れなければ、その家や町の平安は彼らに返ってくる。イエスは厳かな表情で言われた。「わたしがあなたがたを遣わすのは、狼の群れの中に羊を送り込むようなものだ。」

この言葉に、弟子たちの背筋に冷たい緊張が走った。彼らは迫害や危険に直面することを覚悟しなければならなかった。しかし、イエスは彼らを励ますように付け加えた。「人々に用心しなさい。彼らはあなたがたを議会に引き渡し、会堂でむち打つからだ。」それでも、彼らは恐れる必要はなかった。なぜなら、「あなたがたを訴える者たちと対峙するとき、何を話せばよいかは、その時に聖霊が教えてくださる」からであった。

イエスの言葉はさらに深く、彼らの家族さえも敵となる可能性を示した。「兄弟は兄弟を、父は子を死に引き渡し、子は両親に逆らって立ち上がるだろう。」弟子たちの顔に影が差した。彼らはイエスのために家族との絆さえも断たれるかもしれないという現実に直面した。しかし、イエスは力強く宣言された。「自分の十字架を負ってわたしに従わない者は、わたしにふさわしい者ではない。」

最後に、イエスは彼らに大きな約束を与えた。「わたしのために自分の命を失う者は、それを見いだす。」この逆説的な真理は、弟子たちの心に深く刻まれた。彼らは、この世での苦しみや犠牲が、永遠の命への道であることを悟った。

こうして、十二人の弟子たちはそれぞれの道へと歩み出した。彼らの心にはイエスの言葉が響き、神の国の福音を宣べ伝える使命に燃えていた。彼らが訪れる村々で、病が癒され、悪霊が追い出され、人々の心に希望が灯されていく。しかし同時に、拒絶と迫害の影も彼らを待ち受けていた。

弟子たちの旅は、信仰と勇気の物語の始まりであった。彼らは、イエスが与えた権威と約束を胸に、神の国の到来を告げ知らせるために、ガリラヤの道を歩んでいったのである。

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