聖書

「生ける石として建て上げられて」

**「生ける石として建てられて」**

エルサレムから遠く離れた小アジアの地に散らされたクリスチャンたちは、激しい迫害と苦難の中にあった。異教の文化に囲まれ、皇帝崇拝を強要される中で、彼らは自分たちの信仰をどう守り、どう生きるべきか悩んでいた。そんな彼らに、使徒ペテロは励ましの手紙を送った。

「あなたがたは、選ばれた民、王である祭司、聖なる国民、神の所有とされた民です。それは、あなたがたを暗やみから驚くべき光の中に招いてくださった方のすばらしいみわざを、あなたがたが宣べ伝えるためなのです。」(Ⅰペテロ2:9)

ペテロの言葉は、彼らのアイデンティティを鮮やかに描き出した。かつては「神の民」ではない者たちだったが、今やキリストによって神のものとされ、光の中へと導かれたのだ。この真理は、彼らの心に深く響いた。

### **生ける石として**

ペテロはさらにこう記す。

「あなたがたも生ける石として、霊の家に築き上げられなさい。そして、聖なる祭司として、イエス・キリストを通して、神に喜ばれる霊のいけにえをささげなさい。」(Ⅰペテロ2:5)

この言葉は、一人の青年、ニコラオスの心に強く迫った。彼は石工の息子で、父の仕事を手伝いながら、神殿や家々の石を切り出していた。石は、一つひとつ丁寧に積み上げられ、堅固な建物となる。ペテロの言葉は、彼にとって特別な意味を持った。

「私たちも、キリストという礎の上に建てられる『生ける石』なのか…。」

ニコラオスは仲間たちにこのみことばを分かち合った。彼らは、自分たちが単に迫害される弱い存在ではなく、神の偉大な建物の一部として用いられることを悟った。

### **この世における旅人として**

しかし、現実は厳しかった。町の市場で、ニコラオスが「イエスは主である」と告白すると、商人たちは彼をののしり、石を投げつけた。仲間のリディアは、ローマの役人からキリストを否定するよう強要され、拒んだために投獄された。

ペテロはこう励ました。

「愛する者たちよ。あなたがたを試みるためにあなたがたの間に燃えさかる火の試練を、何か思いがけないことが起こったかのように驚き怪しむことなく、むしろ、キリストの苦しみにあずかればあずかるほど喜びなさい。」(Ⅰペテロ4:12-13)

ニコラオスは苦しみの中でも、自分たちが「この世の仮住まいの旅人」であることを思い出した。彼らの真の故郷は天にあった。

### **善を行って証しする**

ペテロはまた、こう教えた。

「あなたがたは、異邦人の中にあって、りっぱな行いをしなさい。そうすれば、彼らはあなたがたを悪人呼ばわりしていても、あなたがたの良い行いを見て、訪れの日に神をあがめるようになります。」(Ⅰペテロ2:12)

ニコラオスと仲間たちは、この教えに従い、隣人たちに仕えることを決めた。迫害する者たちでさえ、病気の時には彼らが祈り、食べ物がなくて困っている時には分かち合った。次第に、町の人々の心は変化していった。

「なぜ彼らは、私たちが悪く扱っても、かえって善を行うのだろう?」

ある日、町の役人がニコラオスに尋ねた。ニコラオスは静かに答えた。

「私たちの主イエス・キリストが、私たちの罪のために十字架で苦しみ、それでも敵を赦されたように、私たちもあなたがたを愛しているからです。」

役人は深く考え込んだ。そして、やがて彼もキリストを信じる者となった。

### **キリストの足跡に従う**

ペテロの手紙は、彼らに確信を与えた。

「キリストも、あなたがたのために苦しみを受け、その足跡に従うようにと、あなたがたに模範を残されました。」(Ⅰペテロ2:21)

ニコラオスと仲間たちは、このみことばを胸に刻み、どんな苦しみの中でもキリストに従い続けた。彼らの信仰は、まるで堅固な神殿を築く石のように、一つひとつ積み上げられ、やがて多くの人々をキリストへと導く礎となっていった。

こうして、小アジアの地に散らされたクリスチャンたちは、生ける石として建て上げられ、神の栄光を輝かせていったのである。

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