**ヨシュア記17章に基づく物語**
太陽がヨルダン川の東の山々に沈み、カナンの地に夕闇が迫る頃、マナセ族の長老たちはヨシュアの前に集まった。彼らの目には不安と期待が入り混じっていた。マナセ族はヨセフの子孫として大きな祝福を受けていたが、相続地の割り当てをめぐって未だに解決せぬ問題を抱えていた。
### **マナセの相続地の分配**
ヨシュアはシロの幕屋の前で、神の御前でくじを引いた。マナセ族には、ヨルダン川の西側で十の地域が割り当てられた。その中には、強力なカナン人の町々が含まれていた。
マナセ族の戦士たちは、既にバシャンの王オグを打ち破った勇者たちの子孫であった。しかし、彼らの相続地には、鉄の戦車を持つカナン人が堅固な城壁を築いており、容易には征服できない状況だった。
### **ツロポハと娘たちの訴え**
ある日、ツロポハの娘たちがヨシュアと祭司エルアザル、および族長たちの前に進み出た。彼女たちの父ツロポハは、マナセ族のギレアドの子孫であり、娘たちには兄弟がいなかった。
「主はモーセを通じて、娘にも相続地を与えるように命じられました」と、彼女たちは毅然とした声で訴えた。
ヨシュアは彼女たちの言葉を聞き、主の命令を思い出した。確かに、モーセは、嗣業のない家の娘たちにも土地を与えるように定めていた(民数記27章)。ヨシュアはうなずき、マナセ族の相続地の中から、彼女たちにも分け前を与えるように命じた。
### **マナセ族の不満とヨシュアの答え**
しかし、マナセ族の中には不満を抱く者たちもいた。彼らはヨシュアのもとに来て言った。
「なぜ私たちには一つのくじしか引かせないのですか? 私たちは数多くの民であり、主は私たちを大いに祝福されたのに、この土地は狭すぎます!」
ヨシュアは彼らの言葉を聞き、静かに答えた。
「もしあなたがたが多くの民であるなら、ペリジ人やレファイムの末裔が住む森の地に上って行き、そこを切り開いて住むがよい。山地もあなたがたのものだ。カナン人は鉄の戦車を持ち、強いかもしれないが、あなたがたは主と共に戦うのだ。彼らを追い出し、その地を獲るがよい。」
マナセ族の戦士たちはヨシュアの言葉に奮い立った。彼らは確かに多くの民であり、主が共におられるなら、どんな敵も恐れる必要はなかった。
### **信仰と従順の決断**
こうして、マナセ族は与えられた地に住みつつも、さらに領土を広げるために戦い続けた。彼らは森を切り開き、山地を占領し、カナン人を追い出そうとした。しかし、完全に彼らを滅ぼし尽くすことはせず、一部を労役に服させるだけにとどまった。
このことは、後にイスラエルの民にとっての試練となるが、その時、彼らは主の命令に完全に従い切れなかったことを悟るのである。
### **結び**
マナセ族の物語は、神の約束に対する信仰と、従順の重要性を教えている。彼らは多くの民として祝福されていたが、その祝福を完全に享受するためには、敵と戦い、土地を獲る努力が必要だった。
同じように、神の民は与えられた約束の地を「ただ受け取る」だけでなく、信仰をもって進み出て行く必要がある。主は、私たちに不可能を強いることはなさらない。ただ、私たちが信頼をもって前進する時、必ず勝利を与えてくださるのである。
「あなたがたの神、主があなたがたに与えようとしておられる地に入って、それを得るならば、あなたがたは勇敢でなければならない。」(ヨシュア記1:9)