エルサレムの神殿の境内は、初夏の陽射しにきらめいていた。敷石の隙間からは雑草がひそかに顔を揺らし、鳩たちが翼を休める影がゆったりと移ろっていく。人々のざわめきが石柱に反響するなか、一人の男が突然、群集の中心に立ち現れた。ハナニヤという預言者である。
彼は身にまとった粗末な外套をひるがえし、声を張り上げた。「主はこう言われる。わたしはバビロンの王のくびきを二年のうちに打ち砕く」
その言葉に、祭司たちや境内に集まっていた人々の間に波紋が広がった。ユダの民を苦しめるバビロンの支配が終わるというのだ。希望に胸を躍らせる者、疑いの目を細める者、様々な表情が交錯する。
その時、隅に佇んでいたエレミヤがゆっくりと歩み出た。彼の肩には、二本の木でできた牛のくびきがかけられている。革紐がきしむ音だけが、突然の静寂を破った。
「アーメン。主がそのようにしてくださるように」エレミヤの声は枯れ葉のようだった。「しかしハナニヤよ、聞いてくれ。昔から、平和を預言する預言者は、その言葉が成就して初めて、まことに主が遣わされた預言者だと認められたのだ」
ハナニヤの目に一瞬、怒りの色が走った。彼は素早くエレミヤに近づき、その肩からくびきを引きちぎると、地面にたたきつけた。木片が跳ねる音が境内に響き渡った。
「主は言われる。このように、二年のうちにバビロンの王ネブカドネザルのくびきを打ち砕く」
エレミヤは無言で壊れたくびきを見つめ、ゆっくりと去っていった。彼の背中は、まるでさらに重いものを背負っているかのように見えた。
それから数週間後、主の言葉が再びエレミヤに臨んだ。
「行ってハナニヤに告げよ。お前は木のくびきを砕いたが、代わりに鉄のくびきを作ったのだと」
エレミヤはハナニヤの家を訪れた時、かつての威勢の良さが彼から消え失せているのを見て取った。窓から差し込む夕陽が、部屋の隅にうずくまるハナニヤを逆光で浮かび上がらせていた。
「主はこう言われる。あなたはこの民に偽りを信じ込ませた。見よ、わたしはあなたを地の面から取り去る。あなたは今年のうちに死ぬ」
その言葉が終わらないうちに、ハナニヤの顔から血の気が引いていくのが分かった。彼は何か言おうとしたが、言葉にならなかった。
七月が過ぎ、秋の気配がエルサレムの路地に広がり始めた頃、ハナニヤがこの世を去ったという知らせが町中に伝わった。人々は口々に、主が真実の預言者をお見分けになるのだとささやき合った。
エレミヤはその報せを聞いても、特に何も語らなかった。ただ、彼の目には深い悲しみが宿っていた。主の言葉を語ることは、時に最も辛い使命であることを、彼は誰よりもよく知っていたからだ。




