エルサレムの石畳が夕立の湿気を帯び、ひび割れた陶器のように熱を放っていた。宮廷の一角では、王の側近たちがひそひそと話し合っている。ユダの国に迫るアッシリアの脅威が、彼らの額に深い皺を刻んでいた。
「エジプトに使節を送るべきだ」
老練な大臣が葡萄酒の杯を傾けながら言った。
「あの戦車と馬の軍勢こそ、我々を守ってくれる」
その言葉に、若い貴族たちが熱狂的に頷く。彼らの目には、ナイル川の豊かな水と、砂漠を駆ける戦車隊の勇壮な姿が浮かんでいた。誰もが、はるか南方の大国に救いを求めることに異論を唱えようとしなかった。
ただ一人、宮殿の奥で祈りを捧げる老預言者が、この動きを危惧していた。イザヤは、すり減った敷物の上にひざまずき、窓から差し込む斜陽を見つめながら、神の声に耳を傾けている。彼の耳には、すでに主の警告が響いていた。
「災いだ、そむける子らは」
イザヤの唇が微かに震える。
「謀りごとをなすが、わたしによるのでなく
同盟を結ぶが、わが霊によるのでなく
罪に罪を重ねる」
数日後、ろばに荷を満載した使節団がエルサレムを発った。彼らはネゲブの荒野を越え、猛暑と砂塵に耐えながらエジプトを目指す。道中、若い書記官が不安そうに呟いた。
「預言者イザヤは、この同盟を強く戒めておられました」
使節団の長である将軍は、荒い笑い声をあげた。
「老預言者は夢ばかり見ている。現実の政治がわからぬ者だ」
一方、エルサレムではイザヤが王の前に立っていた。宮殿の大理石の柱が、彼の細い影を長く引き延ばす。
「エジプトに頼る者は辱めを受ける」
預言者の声は静かだが、宮廷全体に響き渡る。
「彼らの助けはむなしく、いたずらである」
王は玉座にもたれ、いらだたしげに指で扶手を叩いた。
「我々に選択の余地があるというのか? アッシリアの鉄のごとき軍勢が、すぐそこまで迫っているのだ」
イザヤは深く息を吸い込んだ。
「立ち返って静かにしているならば、あなたがたは救われ、落ち着いているならば、力ある」
しかし王の耳には、この言葉は遠い夢物語にしか聞こえなかった。
エジプトへの道中、使節団は次第に困難に直面する。昼は焼けつくような太陽が彼らを苦しめ、夜は急に冷え込む砂漠の風が骨にしみた。ある日、突然砂嵐が襲い、荷物の半分を失う。ろばが一頭、疲れと渇きで倒れた。
「ここまで来て引き返すわけにはいかぬ」
将軍は歯を食いしばって言い放つ。
ようやくエジプトの国境にたどり着いた時、彼らは期待していたような歓迎を受けなかった。役人は冷淡に書類を確認し、何日も待たされる。将軍は黄金の贈り物を贈り、ようやくファラオの臣下との会見を取りつける。
「ユダの使節か」
高官は斜に構えて彼らを見下ろす。
「我々もまた、アッシリアの脅威にさらされている。あなたがたを守る余裕などない」
その言葉に、使節団は凍りついた。彼らが必死に願った援助は、実るはずのない計画だったのだ。
エルサレムに戻った使節団の報告を聞いた時、王宮は沈黙に包まれた。イザヤの預言が現実となった瞬間である。
「あなたがたは『去れ、遠ざかれ
わたしたちは速い獣に乗ろう』と言った
それゆえ、あなたがたを追う者は速くなる」
預言者は荒廃した都を見渡しながら、神の言葉を記し始める。過ぎ去った災いの描写は、しかし希望の約束へと変わる。
「しかし、主は待ち望んで
あなたがたを恵まれる
立ち上がって、あなたがたをあわれまれる」
季節が巡り、破壊された城壁の石の間から雑草が芽吹く頃、人々の心に変化が訪れる。誇り高かった貴族たちが、ひざまずいて祈り始める。市場の商人たちが、偽りのはかりを捨てる。かつてイザヤを嘲笑った者さえ、静かに神殿の庭に座り、神の導きを待つようになる。
ある夕暮れ、イザヤはオリーブ山の頂から都を見下ろしていた。廃墟の中にも、新しい命の兆しが見え始めている。彼は巻物を広げ、最後の言葉をしたためる。
「あなたの耳はうしろで言葉を聞く
『これが道である、これに歩め
右に行け、左に行け』と」
風が丘を渡り、枯れ野に雨をもたらす雲が東から湧き上がる。遠くで、羊を連れた羊飼いの笛の音が聞こえる。破壊と絶望の後に、静かな確信が訪れる時が来たのだ。




