その日、ガリラヤ湖のほとりは、朝もやに包まれていた。水面は鉛色に曇り、遠くで漁師たちの網を打つ音がかすかに聞こえる。イエスは弟子たちとともに、群衆から少し離れて岩場に座っておられた。三日もの間、人々が何も食べずにイエスに従って来ていることに、彼の心は痛んでいた。
「あの人たちを家に帰らせなければ」とイエスは弟子たちに言われた。「途中で倒れる者が出るといけない」
弟子たちは困り果てていた。荒れ野のようなこの場所で、どうやってこれほど大勢の空腹を満たせばよいのか。フィリポがため息をつく。「パンに二百デナリオンもかけても、足りないでしょう」
その時、アンデレが少年を見つけて連れて来た。少年は編みかごに五つのパンと二匹の魚を大事そうに抱えている。「ですが、これだけしかありません」
イエスはそのかごを受け取ると、深い慈愛に満ちた眼差しで群衆を見回された。人々は青草の上に座り、期待に輝く目をイエスに向けている。イエスは天を仰ぎ、感謝の祈りをささげてから、パンを裂き始められた。その手つきは驚くほど丁寧で、一片一片が祝福に満ちているようだった。
弟子たちが配って回ると、パンは不思議に増え続けた。漁も同じように。人々は満腹するまで食べ、残ったパンくずを集めると、七つのかごいっぱいになった。湖面に夕陽が沈む頃、人々は感謝に満ちて家路についた。
その後、イエスは弟子たちだけを連れて舟に乗り込まれた。向こう岸へ渡る途中、イエスは突然彼らを戒められた。「パリサイ派の人々とヘロデのパン種に気をつけなさい」
弟子たちは舟の底で囁き合った。「パンを持って来るのを忘れたから、お叱りになったのか」
イエスは彼らの心を見透かすように言われた。「なぜ、パンのことなど論じ合うのか。まだわからないのか、悟らないのか。心が鈍っているのか」
そして、かつて五千人にパンを分けた時の十二のかごの話、今しがた四千人に分けた七つのかごの話をされると、弟子たちはようやく、パン種の譬えが教えそのものを指すことに気づいた。
ベツサイダに着くと、人々が盲人を連れて来た。イエスはその手を取って村の外れに連れて行き、唾をその目につけ、両手をその人の上に置かれた。「何か見えるか」
盲人はぼんやりと見える人影を認めた。「木のようなものを見ます。歩いているのが分かります」
イエスが再び手をその目に当てられると、視界は鮮明になり、すべてがはっきり見えるようになった。イエスは「村には寄らないで」と言い、家に帰されるよう命じられた。
さて、フィリポ・カイサリア地方の村へ向かう道中、イエスは弟子たちに問われた。「人々は、わたしのことを何者だと言っているか」
弟子たちは答えた。「洗礼者ヨハネだと言う者もいれば、エリヤだと言う者もいます」
するとイエスは彼らをじっと見つめ、「それでは、あなたがたはわたしを何者だと言うのか」と問われた。
シモン・ペトロが即座に叫んだ。「あなたはメシア、生ける神の子です」
イエスの顔に深い安堵の表情が浮かんだ。「あなたは幸いだ。このことをあなたに示したのは、人間ではなく、天の父なのだ」
そして、ご自身が必ず多くの苦しみを受け、殺され、三日目に復活することを語り始められた。ペトロはイエスをわきへ連れて行き、いさめ始めた。「主よ、とんでもない。そんなことがあってはなりません」
しかしイエスは振り返り、ペトロをじっと睨みつけられた。「サタン、引き下がれ。あなたはわたしの邪魔をする者だ。神のことを思わず、人間のことを思っている」
その後、群衆と弟子たちを呼び集めて言われた。「わたしについて来たい者は、自分を捨て、自分の十字架を背負って、わたしに従いなさい。自分の命を救おうとする者はそれを失い、わたしのために命を失う者はそれを得るのだ」
夕暮れが迫り、オリーブの木立が長い影を落とす中、イエスの言葉は弟子たちの胸に深く刻まれた。通りすがりの旅人がろばに荷を載せる様子を見ながら、ペトロは十字架の重みとは何かを考えていた。遠くで羊の群れを追う羊飼いの笛の音が、いつもより切なく響いた。




