ベタニアの村は、オリーブの木立に抱かれるようにして夕闇に沈みかけていた。家々からは晩の炊煙が幾筋も立ちのぼり、どこかで羊の声が聞こえる。マルタは窓辺に立ち、遠くに見えるエルサレムへの道をぼんやりと眺めていた。弟ラザロの熱は依然として下がらない。額に当てた布はすぐに温くなり、取り替えても取り替えても、あのうつろな目つきは変わらなかった。
マリアが部屋の隅で小声で祈っている。彼女はこの三日間、ほとんど眠っていない。目の下に隈ができ、祈る指が細く震えている。
「彼に知らせるべきよ」
マルタが口を開くと、マリアが顔を上げた。
「イエス様に?」
「そう。もう…もう手の施しようがない。あの人が来てくだされば、きっと…」
マルタの声は詰まった。彼女は自分が何を信じ、何を期待しているのか、言葉にできなかった。あのガリラヤの教師が、病人に触れ、悪霊を追い出し、ありえない奇跡をいくつも成し遂げてきたことを、彼女たちは目の当たりにしてきた。しかし、この病は違った。それは底知れぬ闇のようにラザロの体を蝕み、生命の灯を徐々に消し去っていく。
使いの者は夜明け前に出発した。エルサレムからさらに東、ヨルダン川の向こうで教えを説いているというイエスのもとへ。道のりは二日。返事を得るのにさらに二日。マルタは計算した。四日。ラザロがそれまで持つかどうか。
一日目、ラザロは時折意味のない言葉を口走るだけだった。二日目、彼の呼吸は浅く速くなり、額に触れると冷たかった。三日目の午後、彼は静かに息を引き取った。
嘆きの声が家を満たした。マルタは泣き叫ぶマリアを抱きしめながら、自分の心がどこかで凍りつくのを感じた。彼女は動いた。遺体に香油を塗り、亜麻布で巻く。村の女たちが集まり、哀歌が低く響く。そのすべてが、遠くから自分を見ているような感覚だった。
その頃、ヨルダン川のほとりでは、イエスが使いの者からの知らせを受け取っていた。弟子たちが心配そうに彼の顔を覗き込む。イエスはしばらく黙ってから、静かに言った。
「この病は死で終わるものではない。神の栄光のため、また、神の子がそれによって栄光を受けるためのものだ」
そして、彼はなお二日間、その地に留まった。
弟子たちは当惑した。ベタニアはユダヤ地方、エルサレムに近い。先ほども石を持って襲いかかろうとした者たちがいたではないか。トマスが重い口を開いた。「行こう。私たちも、彼と共に死のうではないか」
一行がベタニアに着いたのは、ラザロが墓に納められて四日目のことだった。村の入り口ですでに情報は広まっていた。マルタは、誰かが呼ぶ声を聞き、駆け出した。道のりでイエスに出会うと、彼女の口からは、準備していたはずの信仰の言葉ではなく、つぶやくような責めが零れた。
「主よ、もしここにいてくださったら、弟は死ななかったでしょうに」
彼女の目には涙よりも深い、やりきれなさがにじんでいた。イエスは彼女を見つめ、「あなたの弟はよみがえる」と言った。マルタはうなずく。終わりの日の復活を信じている。しかし今、この腐敗が始まろうとする現実の前に、その信仰はあまりに遠いものに思えた。
「わたしは、復活であり、命である」
イエスの言葉は、春の雷のように彼女の胸に落ちた。それは教義でも概念でもなく、今、ここに立つこの人そのものが宣言する事実だった。彼女は走って家に戻り、妹にささやいた。「先生がおいでになって、あなたをお呼びです」
マリアが立ち上がる。家に集まっていた弔問客たちも、彼女が急いで出て行くのを見て、後を追った。墓へ向かうのだろう、と思って。マリアはイエスの足もとに泣き伏した。マルタと同じ言葉を口にした。「主よ、もしここにいてくださったら…」
彼女の嗚咽がやまない。周りに集まったユダヤ人たちも泣いていた。その時、イエスが深くため息をつき、心をかき乱された。その様子を見て、ある者が言った。「ごらんなさい。どんなに愛しておられたか」
そして、「彼をどこに置きましたか」という問いに、「行ってごらんなさい」と彼らは答えた。
その時、イエスが泣かれた。
それは、短く、静かな涙だった。しかし、それを見た者すべての胸に、この涙の重みが伝わった。神の子が、人の子として泣いた。死という現実の前に、共有された痛みがそこにあった。
墓は洞穴で、入口は石でふさがれていた。イエスが「石を取りのけなさい」と命じると、マルタが狼狽した声をあげた。「主よ、もう臭くなっております。四日も経っていますから」
彼女の言葉は、すべての現実を代弁していた。信仰と、目の前の腐敗の現実。希望と、打ち砕かれた絶望。イエスは彼女を見つめ、言った。「もし信じるなら、神の栄光を見ると、わたしはあなたに言ったではありませんか」
石が取り除かれる。暗い穴が口を開いた。湿った土と、何か甘ったるい、不吉な空気が漂う。人々が思わず後ずさりする中、イエスが天を仰いで祈った。
「父よ、わたしの願いを聞き入れてくださったことを感謝します。わたしの願いを常に聞いてくださることを知っています。しかし、わたしがこう言うのは、周りに立っている群衆のためです。あなたがわたしをお遣わしになったことを、彼らに信じさせるためです」
そして、声を張り上げて叫ばれた。
「ラザロよ。出て来なさい」
一瞬、沈黙が流れた。風の音も、人々の息づかいも止まったように思えた。そして、洞穴の闇の中に、白い影がゆっくりと動いた。亜麻布に包まれ、顔も覆われたその姿が、よろめくようにして外の光の中に現れた。
「包み帯を解いてやって、行かせなさい」
イエスの言葉で、人々が動いた。震える手で布を解き始める。その下から現れたのは、死の青白さではなく、生きた血の気であった。ラザロはまばたきし、困惑したように周りを見回した。マルタとマリアは、声も出せずにその腕に飛びついた。
夕暮れの光が、オリーブの葉を黄金に染めていた。家の中には、再び笑い声が戻り、食事の匂いが漂い始めた。しかし、その喜びの只中にあって、幾人かの顔には複雑な影が差していた。何が起きたのか。この出来事が意味するものは何か。それを真に理解するには、まだ時が必要だった。
イエスは静かに座り、再び生き返ったラザロと、彼の姉たちを見つめていた。その目は、やがて来るべきもう一つの死と、それに打ち勝つ復活を、はるかに見据えているようであった。ベタニアの夕闇は深まり、一つのかけがえのない真実が、この小さな家の中に、確かに息づいていた。




