その日、暑気がバビロンの城壁を揺らしていた。空は青く、しかし鈍い鉛色を帯び、遠く砂漠から熱風が運ばれる予感に、街の騒めきにもかかわらず、一部の者の胸には漠然とした不安が巣くっていた。市場では香料と汗の匂いが混じり、金床を打つ音、商人の掛け声、そして様々な国から連れて来られた人々の言葉が、この巨大な都の繁栄を謳い上げているようだった。
その中に、ユダから連れて来られた老人がいた。名をエリヤフといった。彼は王宮の庭園の片隅で、無花果の木の手入れを命じられていた。指先は土に染み、かつてエルサレムの丘でぶどう畑を耕した時の記憶が、鋭く蘇る。遠く、ジッグラトの巨大な影がそびえ、それは人間の傲慢が空へと積み上げた塔のように思えた。
「エリヤフ。」
隣で水桶を運んでいた若い男、ミカヤが低く呟いた。彼らの間では、故郷の言葉で話すことが許されない時もあった。
「今日の風、おかしいと思わないか。北からの風ではないのに、何かが近づいている気がする。」
エリヤフは手を休め、西の空を見た。そこには何もない。しかし彼の耳には、この繁栄の巷に満ちる騒音の底から、別の響きが聞こえるような気がしていた。それは遠雷のようでもあり、大河の流れのようでもあった。主の言葉が、彼の心の奥でよみがえってくる。かつてエレミヤが預言した、あの言葉たちが。
夜になり、奴隷たちが詰め込まれた小屋で、エリヤフはミカヤら数人に、小声で語り始めた。蝋燭の灯りが彼らの憔悴した顔を揺らす。
「わたしは覚えている。バビロンが怒りの杯となって、すべての国を酔わせた日々を。しかし、万軍の主はこう言われる。『見よ、わたしは、遠く北の地から一つの国民を奮い立たせ、バビロンに襲いかからせる。彼らは弓と矛を構える兵士だ。彼らは情け容赦なく、お前を攻め、その叫び声は、海の轟きのようになる。』」
彼の声は枯れており、しかし確かだった。周囲の男たちは息を殺して聞いた。その言葉は、この煉瓦と釉薬の牢獄の中で、消えることのない希望の火種でもあった。
月日は流れ、バビロンの祭りが盛大に行われた夜のことを、エリヤフは最後まで忘れなかった。ベル神の像が街中を練り歩き、金と銀の装飾が無数の松明に照らされて輝き、王と高官たちは酒に酔い、自分たちの力が永遠であるかのように笑い転げていた。その喧騒が頂点に達した時、エリヤフは、はっきりとそれを聞いた。
遠く、城壁の外から、角笛の音が一つ。それに続く、地を揺るがすような無數の蹄の音。
混乱は瞬く間に広がった。歓声は悲鳴に変わり、楽の音は武器の軋む音に消された。北からの軍勢は、預言された通りだった。彼らは破壊の鎌のように都に襲いかかり、難攻不落とされた城門は、内側からの裏切りによって開かれた。火が上がり、神殿の財宝が略奪され、バビロンは一夜にして、獣の餌食となる巣窟と化した。
エリヤフと仲間たちは、混乱に乗じて隠れ家から這い出た。彼らは逃げ惑う群衆に逆らい、ユダの方角へと歩き始めた。振り返れば、かつての栄華を誇った都は、巨大な炎の柱に包まれていた。その光景を見つめながら、エリヤフは涙した。それは恐怖でも悲しみでもなかった。ある種の畏れに近い、神の言葉の確かさへの慄きだった。
「主は言われる。『見よ、バビロンは山々の中にあり、諸国の民の間にあって、滅ぼされる。その水はかれて、砂漠となり、住む者のなく、人の子の通うことのない地となる。』我らは、契約を覚えておられる主のもとへ帰ろう。羊が飼い主を求めてさまようように、我らは我らの岩、イスラエルの牧者なる主を求めて、この道を歩むのだ。」
彼らは夜明けの薄明かりの中、ユダへと続く道を東へ向かった。背後の空は、まだ赤く焼けていたが、前方の地平線には、微かな、しかし確かな光の帯が広がり始めていた。足取りは重く、未来は不確かだった。しかし、捕われの身が解かれたという実感と、遠い約束の地への望みが、彼らの心に、消えかけていた祈りの言葉を再び灯させた。それは、バビロンの轟音が沈黙に変わった朝に、初めて聞こえてきた、静かな赦しと贖いの予感だった。




