ガリラヤの北、フィリポ・カイサリアのあたりは、岩が多く、遠くにヘルモン山の雪を頂いた峰が見える土地だった。風が吹き抜けると、野生の薄荷と枯れ草の匂いが混ざり、何とも言えない寂寥感を運んできた。イエスは弟子たちを連れて、人里離れたこの場所までやって来ていた。エルサレムからも、混雑したガリラヤの湖畔からも遠く、ただ巡礼者たちが地方からエルサレムへ向かう際に、かすかに往来があるだけの道だった。
弟子たちの会話も、いつになく低調だった。先ほど通りかかった村で、パリサイ派やサドカイ派の人々が、またしても天からのしるしを求めているのを見て、みなうんざりした気分になっていた。ヨハネがぶっきらぼうに「あの人たち、本当に何も見えないんでしょうか。先生がなさったこと、全部知ってるはずなのに」と呟くと、アンデレがため息混じりにうなずいた。「見たくないものは見えないんだよ。都から来た律法学者たちも同じさ。」
イエスは少し離れた岩陰に腰を下ろし、遠くを見つめていた。その背中は、いつもより重く見えた。ペトロはそんな師の姿が、なぜだか気にかかった。彼はそっと近づき、皮の水筒を差し出した。「先生、お飲みになりますか。」
イエスは振り向き、ほのかに笑ってそれを受け取った。飲み干すと、「人々は、わたしのことを何者だと言っているか」と、不意に尋ねた。声には疲れがにじんでいた。
弟子たちが集まってきた。質問の意味を測りかねて、彼らは口々に聞きかじった噂を話し始めた。「洗礼者ヨハネの生まれ変わりだと言っている者もいます」と、一人が言えば、別の者が「いや、エリヤが戻って来たのだと言う者も多い」と応じた。「エレミヤだとか、昔の預言者の一人だという話もあります。」
風が一陣、強く吹き、ペトロの髪を逆立たせた。イエスは彼ら一人一人の顔をじっと見つめた。目は深く、静かな炎を宿しているようだった。
「それでは、あなたがたはわたしを何者だと言うのか。」
言葉が空中に投げかけられ、しばし沈黇が広がった。波の音も、鳥の声もない。ただ、ごつごつとした岩の間を縫って吹き抜ける風の音だけが聞こえる。質問は簡単そうでいて、ありとあらゆるものをはらんでいた。これまでの旅路、目にした奇跡、聞いた言葉、すべてがこの一言に凝縮されているように感じられた。
弟子たちは顔を見合わせた。誰もが心の中で考え、あれこれと言葉を探していたが、口を開く勇気がなかなか出ない。言い損ねれば、何かが決定的に壊れてしまいそうな、危うい問いだった。
すると、ペトロが前に出た。彼の頬は、潮風と太陽で赤黒く焼け、目だけが異様に輝いていた。まるで、心の中で長い間煮え滾っていたものが、とうとう口を突き破って出てきたかのように、彼は力強い、しかし少し嗄れた声で言った。
「あなたは、メシア、生ける神の子です。」
言葉が放たれると、周りの空気が一変した。他の弟子たちが息を呑むのが聞こえた。ペトロ自身も、自分が言った言葉の重さに、少し後ずさりしそうになった。「メシア」――油注がれた者、待ち望まれた救い主。それはユダヤの民が幾星霜も夢見てきた存在だった。だが、それはまた、ローマの権力に真っ向から挑むことを意味し、流血と混乱を呼び起こす危険な言葉でもあった。
イエスはペトロを見つめ、その目は一瞬、驚きと深い喜びに満ちた。彼は歩み寄り、岩だらけの地面に立つペトロの肩に、しっかりと手を置いた。その手のひらは、大工仕事でできた頑丈なまめでごつごつしていた。
「シモン・バルヨナ、あなたは幸いだ。あなたにこのことを現したのは、人間ではなく、天におられるわたしの父なのだ。」
ペトロの目に涙が浮かんだ。それは誇らしさでも、達成感でもない。むしろ、理解を超えた大きな何かによって心を貫かれた者が覚える、畏れに近い感情だった。
イエスは言葉を続けた。「わたしもあなたに言う。あなたはペトロ(岩)。わたしはこの岩の上にわたしの教会を建てる。陰府の力もこれに対抗できない。」
その宣言は、この荒涼とした岩場にこだました。教会――「エクレシア」、呼び集められた者たちの群れ。それは彼らがまだ完全には理解できない未来の絵図だった。そして「陰府の力」という言葉は、目に見えないが確かに存在する、すべての悪と死の力への宣戦布告のように響いた。
「わたしはあなたに天の国の鍵を授ける。あなたが地上で縛ることは、天上でも縛られる。あなたが地上で解くことは、天上でも解かれる。」
ペトロはただ茫然と立ち尽くしていた。鍵。家の主が家の管理を委ねるように、師が彼に、計り知れないほどの責任を託した。その重みに、彼の足は地面に釘付けになった。
しかし、イエスの表情は急に曇った。彼は弟子たちの方へ向き直り、これからエルサレムへ上り、長老、祭司長、律法学者たちから多くの苦しみを受け、殺され、三日目に復活することになっている、と語り始めた。声は低く、確かな、避けがたい運命を告げるような調子だった。
ペトロの頭は混乱した。メシアであるなら、なぜ殺されなければならないのか。勝利と栄光の座につくべきではなかったか。彼は思わずイエスの脇に歩み寄り、彼の腕を掴んだ。「とんでもないことです、先生。そんなことがあってはなりません!」 その声は、心配と困惑と、少しの怒りすら混じっていた。彼には、愛する師がそんな目に遭う未来など、想像したくもなかった。
イエスはくるりと振り向いた。さっきまでの温かい眼差しは一変し、鋭く、厳しいものになっていた。その目はペトロを貫き、彼の背後にある、より大きな敵を見据えているようだった。
「サタン、引き下がれ。あなたはわたしの邪魔をする者だ。あなたは神のことを思わないで、人のことを思っている。」
「サタン」。誘惑する者、敵対する者。さっきまで「岩」と呼ばれた同じ男に、今、こう言われた。ペトロはまるで頭を殴られたように、ぐらりとよろめた。彼の心は、ほんの一瞬のうちに、神の啓示を受ける器から、神の計画を妨げる障害物へと貶められた。その落差の大きさに、彼は言葉を失った。
イエスは弟子たち全員の方へ向いた。その声は、荒涼とした岩場に響き渡る、冷たい風のように、誰もが心に刻まねばならない真実を運んできた。「わたしについて来たい者は、自分を捨て、自分の十字架を背負って、わたしに従いなさい。」
十字架。それはローマが反逆者に課す、最も残酷で屈辱的な刑罰の道具だった。それを「背負う」とは。弟子たちは顔を見合わせ、互いの目の中に同じ疑問と恐怖を読み取った。ペトロはなおも放心状態で立ち、頬を打った言葉の痛みと、新たに示された「従う」ことの途方もない重さの間に、押しつぶされそうだった。
イエスは再び遠くのヘルモン山を見つめた。山頂は夕日に照らされ、淡いバラ色に染まり始めていた。その美しさは、これから起ころうとしている苦難の対極にあるように思えた。しかし、彼の側に立つ者たちは、今、この瞬間、二つの呼びかけを聞いていた。一つは天からの祝福に満ちた啓示。もう一つは、自分自身を捨てよという、あまりにも過酷な要求。その両方の真実が、この冷たい風の中に、確かに存在していた。
ペトロはゆっくりと自分の手を見つめた。さっき師の腕を掴んだその手だ。彼は何も理解できていない。岩でもあり、邪魔者でもある自分。それでも、ここに立っている。答えなど出ない問いを抱えながら、ただ、夕闇が迫るこの岩だらけの地で、彼は一歩も動くことができなかった。師の背中は、再び、重く、孤独に見えた。




