ほの暗いローマの裏通りを、マルクスは足を引きずりながら歩いていた。左足の古傷が、雨の気配を感じさせた。退役して三年、かつては鎧の重みも軽々と担いだ四肢は、今では酒と無為の日々にむしばまれ、思うように動かない。手には空の皮袋がぶら下がっていた。また一日、酒場で時間を潰した結果だ。通りすがりの辻商人が安い香水を売りつけようとしたが、マルクスは無視した。あの甘ったるい匂いは、都の腐敗そのもののように思えた。
彼の部屋は、アヴェンティーノの丘の中腹にある、壁の漆喰が剥がれた安宿の一室だった。ベッドの上には、昨日脱ぎ捨てたチュニカが丸まっている。床には粘土板が散らばり、そこには未払いの借金や、かつての戦友からの断絶した手紙の下書きが記されていた。すべては、何もかもが、空っぽの循環のように感じられた。戦場で人を殺し、褒美を得て、酒を浴び、女を買い、目が覚めればまた同じ日々。罪? 彼はそういう大層な言葉を使う気にはならなかった。ただ、この泥沼のような生が、延々と続くことに、うんざりしているだけだった。
ある金曜日の午後、市場で小麦を買い求めていると、見慣れない男が声をかけてきた。ルカという、小柄だが目に静かな力を持つギリシャ人だった。数週間前、マルクスがならず者にからまれているところを、さりげなく助けてくれた男だ。彼はテント職人で、どういうわけかマルクスのことを覚えていてくれた。
「その足、痛むのかい?」
何気ない問いかけに、マルクスは肩を竦めて見せた。「昔の傷さ。気にするな」
ルカは頷き、一緒に歩きながら、奇妙な話を始めた。彼は「道」と呼ばれる集いの者だと言う。ユダヤから来た、ある教師の教えを信じている者たちだ。話は複雑ではなく、むしろ驚くほど単純に聞こえた。死と復活の話。古いものが水に葬られ、新しいものが起こる話。
「お前さんも、水に葬られる必要があるんだよ、マルクス」ルカは穏やかな口調で言った。「俺たちが皆そうだったように。古い自分は、もうあの人が十字架で死んだ時に、一緒に葬られたんだ。水はその墓なんだ。そして、水から上がる時、あの人が復活されたように、新しい命で生き始める。もうあの泥沼の輪から抜け出せるんだ」
馬鹿げている、とマルクスは思った。しかし、ルカの言葉は、部屋の床に散らばった粘土板の文字よりも、なぜか重く胸に響いた。その夜、彼はベッドで眠れず、天井のひび割れを眺めていた。泥沼の輪。まさにその通りだ。彼は罪という言葉を避けていたが、その輪の正体は、彼自身が繰り返す、自ら選びながらも憎む行為の数々だった。怒りの爆発、虚偽、欲望への盲従。それらが、彼を形作り、彼自身であるかのように思わせていた。
次の安息日、半ば好奇心から、半ばどこかへ逃げたい衝動から、マルクスはルカに連れられてテベレ川の支流へ向かった。川辺には、男も女も、主人も奴隷も、十数人が集まっていた。皆、普段着のままだが、どこか凜とした空気をまとっていた。一人の初老の男が、静かに語り始めた。その言葉は、ルカが漏らしたそれよりも厳しく、また優しかった。
「…だから、兄弟たちよ。私たちは、キリスト・イエスに結ばれてバプテスマを受けた者は皆、その死にあずかるバプテスマを受けたのだ。私たちは、その死にあずかるバプテスマによって、キリストと共に葬られたのである。それは、キリストが御父の栄光によって死者の中から復活させられたように、私たちもまた、新しい命に生きるためなのだ…私たちの古い自分がキリストと共に十字架につけられたのは、罪に支配されたこの体が滅び、もはや私たちが罪の奴隷となることがないためだと、知るべきである。死んだ者は、罪から解放されているのだから…」
風が川面を揺らし、柳の葉がさらさらと鳴った。マルクスの胸中で、何かが噛み合い始めた。十字架の死。葬り。復活。それは単なる物語でも、遠い誰かの運命でもなかった。彼自身の、このうずくような循環への答えのように思えてきた。古い自分…あの酒に溺れ、虚勢を張り、傷つきながらも傷つけ続ける“マルクス”という男。その男が、あの十字架の上で、キリストと共に刑死した? そう考えると、なんだか恐ろしくもあり、またとてつもない解放感の予感でもあった。死んだ者には、もはや命令は届かない。主人は、死んだ奴隷を支配できない。
順番が来た。ルカが彼の横に立ち、優しく背中を支えた。水は思った以上に冷たく、流れは穏やかだった。初老の男が彼の前に立ち、名前を尋ねた。
「マルクス、あなたは罪から離れ、主イエス・キリストに信頼を置くことを誓いますか」
「…誓います」 声はかすれていた。
「では、あなたの古き人が葬られ、新しい命に生きるように」
彼の体は後ろに倒され、水が耳を塞ぎ、目を覆った。一瞬、戦場で敵の槍を受け、地面に倒れた時の感覚がよみがえった。あの時は、恐怖しかなかった。しかし今、この冷たい水の底で感じたのは、ある種の決別だった。泥のようにべっとりと身にまとっていた何かー怒り、悔恨、虚無、自己憐憫ーそれらが、水流に洗い流されていくような気がした。長くはなかった。すぐに強い腕が彼を引き上げた。
顔を出した時、吸い込んだ空気が、これまで吸ったどんな空気よりも清々しく感じられた。陽光が水面で煌めき、それがまぶしくて、思わず目を細めた。周囲から、ささやかな拍手と、歓びに満ちた歌声が聞こえてきた。彼は震えていた。寒さからだけでなく、内側から湧き上がる、得体の知れぬ震えだった。それは、恐怖とも興奮とも違う。まるで、長い間忘れていた自分自身の一部に、ようやく出会ったような感覚。
宿に帰る道すがら、すべてが違って見えた。同じほの暗い裏通りも、行き交う人々の顔も。彼は突然、酒場の入り口で立ち止まった。いつものように中へ足を踏み入れようとする自分を、ただ静かに見つめた。そして、くるりと背を向けた。その動作は、かつての重い足取りとは違って、驚くほど軽やかだった。
部屋に戻ると、散らかった粘土板を一箇所に集めた。借金の記録や、恨みがましい文章を、一つ一つ丁寧に拭い去っていった。古い自分が葬られたのなら、これらの記録も、墓の中に置いてくるべきものだ。消し終わった板を窓辺に並べ、彼は初めて、遠くに広がるローマの街並みを、批判でも厭悪でもなく、ただあるがままに見つめた。
次の日、彼はルカのテント張りの仕事を手伝い始めた。手つきは不器用だったが、ルカは辛抱強く教えた。夕方、作業が一段落すると、ルカが尋ねた。「どうだい、新しい命は?」
マルクスは手に付いた樹脂の匂いを嗅ぎながら、ゆっくりと答えた。「まだ、よくわからない。ただ…昨日まで、あの酒場の扉は『入れ』って命令していた。今日、あの前を通った時、その声が聞こえなかった。ただの扉だった」
ルカの目が細くなった。「それでいい。死んだ者は、もう命令に従わないからね。これからは、別の主人に仕えるんだ。義にだ。それは、お前さんが今、こうして隣人のために働いている、この手足のことだよ」
月日は流れた。マルクスの足の痛みは消えなかったが、彼はそれと共に歩むことを覚え始めた。時折、古い衝動ー短気を起こしたい衝動、逃げ出したい衝動ーが波のように押し寄せることがあった。そんな時、彼は川辺の記憶に戻った。水の冷たさ。そして、あの「葬られた」という確信。彼はもう、あの衝動の奴隷ではない。彼は、その衝動に対して死んでいる。死んだ者に、波は何ができるだろう。ただ、通り過ぎるのを待てばいい。
ある春の日、同じアヴェンティーノの丘で、かつて借金を取り立てに来た男に出くわした。男は相変わらず高圧的だった。かつてのマルクスなら、拳を握りしめていただろう。しかし今、彼は深く息を吸い、ゆっくりと話し始めた。返済の計画を、冷静に、しかし誠実に伝えた。男は驚いたように彼を見つめ、やがて不機嫌そうに頷いた。
その夜、彼はランプの灯りの下で、一枚の新しい粘土板に記した。「私は、自分の五体を不義の武器として罪にささげてはならない。死者の中から生きる者としての自分を神にささげ、自分の五体を義の武器として神にささげるべきである…神に感謝せよ。あなたがたは、かつては罪の奴隷であったが、今は心から教えの規範に服従し、義の奴隷となったのだから」
書き終え、ランプを消すと、窓の外から細い月明かりが差し込んだ。完全な自由など、この世にはないのかもしれない、と彼は思った。かつては罪の奴隷。今は義の奴隷。しかし、後者の主人の下では、呼吸するように隣人を労わり、嘘の代わりに真実を積み重ね、欲望の代わりに感謝を選ぶことが、不思議と「自由」に感じられる。それは、あの川から上がった時、初めて吸った清々しい空気の感覚に似ていた。
彼はベッドに横たわり、暗闇の中で目を閉じた。明日は、ルカと共に、郊外で病気の兄弟を訪ねる約束がある。足の傷は相変わらず疼くだろう。それでも、歩く理由が、今はここにある。墓は後に残し、彼は新しい命の一日一日を、歩み続けるのだった。




