エルサレムの城壁がつなぎ合わされたあの日から、まだ一月も経っていないのに、町の空気は以前とは明らかに違っていた。石積みから漂う新しい漆喰の匂い。それ以上に、人々の間に張り詰めている、重く、しかしどこか清らかな緊張感。それは、エズラの読み上げる律法の言葉が、日々、人々の暮らしの隙間に入り込み、心の土を耕していたからだ。
アナト族のレビ人、ヨシャフは、朝早くから水くみに行った娘の帰りが遅いので、心配になって家の戸口に出た。通りには、すでに数人の男たちが集まり、何か低声で話し合っている。彼らが見上げている先には、城壁の上を歩く見張り番の姿が、朝もやの中にくっきりと浮かび上がっていた。
「ついに、今日だな」
ヨシャフに気づいた、皮なめし職人のハナンが、低い声で言った。彼の指は、無意識に腰に下げた羊皮紙の巻物に触れていた。そこには、この一ヶ月、指導者たちが夜を徹して練り上げたという、ある誓約の文章が記されている。
「全員が集まるのか?」
「集まるさ。祭司も、レビ人も、門衛も、歌うたいも、氏族の長も…この町に住むすべての者たちが、子供たちを含めて」
ハナンの声には、震えがあった。それは恐怖ではなく、巨大な何かの前に立ったときの、自然な畏れの震えだ。ヨシャフはうなずき、家に戻って儀式用の亜麻布の服に着替えた。粗末なものだが、清めの水を通している。
集会は、水の門の前の広場で行われることになっていた。行く道すがら、ヨシャフは人々の流れに身を任せながら、いくつもの顔を思い浮かべた。バビロンからの長い帰還の旅を共にした者たち。城壁建設で、石の粉にまみれて並んで働いた者たち。そして、この一ヶ月、律法の言葉に胸を突かれ、涙を流した者たち。彼ら全員が、今、同じ方向へと歩いている。
広場は、すでに人の熱気に満ちていた。身分や職業によって、自然と群れができている。祭司たちの純白の衣装が眩しい。その前に立つのは、大祭司エリヤシブの孫であるヨイアダ。彼の横には、総督ネヘミヤの精悍な顔があった。その目は、群衆一人一人の上をゆっくりと移り、確かめるように歩いている。やがて、エズラが前に進み出た。彼の手には、あの分厚い律法の巻物ではない、新しい羊皮紙が握られていた。
沈黙が落ちた。遠くで鳩の声が一瞬聞こえ、また消えた。
ネヘミヤが口を開いた。声は意外に柔らかく、しかし広場の隅々まで届く深い響きを持っていた。
「我々は、今日ここで、我々の神、主の前に立つ。長い離散と、大きな苦難を経て、この場所に再び集うことを許された民として」
彼は言葉を選びながら、ゆっくりと語り続けた。城壁が完成した今、石と漆喰の壁以上に堅固なものが必要だ、と。それは、神との契約という、目には見えないが、魂を形作る壁だと。
そしてエズラが、手にした羊皮紙を掲げた。その文章は、氏族の長、レビ人、祭司たちが、既に署名を終えている。ネヘミヤの名が最初にあり、ツァドク、アビア、ミヤミン…と続く。読み上げられる一つ一つの名前は、この民を支える柱の名だった。
だが、その次に語られた言葉が、ヨシャフの胸を深く打った。
「我々の残りの者、祭司、レビ人、門衛、歌うたい、神殿の使用人、また諸国の民から離れて神の律法についたすべての者、その妻、むすこ、娘、すべて知識と分別のある者は…」
「すべての者」。この言葉が、広場にこだました。ヨシャフは、隣に立つハナンが息をのむのを感じた。皮なめし職人も、神殿の使用人も、異邦の地からただ一人で加わった者も、その家族も、皆、この契約の当事者なのだ。
エズラの朗読する誓約の内容は、具体的で、日々の生活に深く食い込むものばかりだった。
「我々は、この地の民と婚姻を結ばない」
ヨシャフは、ふと、自分の息子がモアブ人の商人の娘に心を寄せていることを思い出し、胸が苦しくなった。子供たちに、どう説明すればいいのか。
「安息日には、すべての売り買いを休む」
ハナンが小さくうめいた。安息日前日の市は、彼にとって最も儲けの多い日だった。収入は確実に減る。しかし、彼は唇を噛みしめ、うつむいた。
「七年ごとに土地を休ませ、すべての負債を免除する」
地主であるエフライム族の男が、複雑な表情で目を閉じた。彼の財産の多くは、同胞への貸し付けから成り立っていた。
「年に三分の一シェケルを、我々の神の宮の務めのために納める」
貧しい家族から、かすかな嘆息が漏れた。生きるので精一杯の彼らにとって、それは小さくない負担だった。
一つ一つの項目が、生活を締め付ける鎖のように思える瞬間もあった。しかし、エズラの声は、それを単なる禁止事項としてではなく、約束として語った。離散と破壊をもたらした道から離れ、このようやく再建された共同体を守るための、互いへの、そして神への約束として。
朗読が終わると、再び深い静寂が訪れた。ネヘミヤが言った。
「主を畏れる者は、皆、この契約に進み出て、署名せよ」
その時、ヨシャフはあることに気がついた。ここには、署名台も、豪華なインク壺もない。代わりに、広場の中央に、大きな粘土板と、簡素な木のスタイラスがいくつか置かれているだけだった。
最初に動いたのは、指導者たちではなかった。群衆の後方から、一人の年老いた女が、孫の手を引いて前に出てきた。彼女の夫は、城壁建設中に落石の下敷きになった。彼女は震える手でスタイラスを取り、粘土板に自分の名前を刻んだ――デビラ。それは、かすかで、よろめくような文字だった。
それを合図に、人々の列がゆっくりと動き始めた。皮なめしの薬品で荒れたハナンの手。幼子を抱き、必死にスタイラスを握る若い母の手。目が悪く、友人が手を添えて文字を刻む老祭司の手。
ヨシャフも列に加わった。粘土板に近づくと、そこには既に、無数の名前が刻み込まれていた。滑らかなもの、ぎこちないもの、深く力強いもの、ほとんどかすれて見えないもの。それらすべてが、一枚の板の上で絡み合い、一つの文章を成している。それは、石の城壁とは別の、生きている契約の壁だった。
彼はスタイラスを取り、自分の名前を刻んだ。粘土の冷たさと、抵抗感が指先に伝わる。この行為が、明日からのすべての選択を縛ることを、彼は覚悟していた。市場で異邦人の商人が持って来た安い小麦粉を見ても、安息日前日に客が来ても、貧しい隣人が借金の返済に窮していても――この刻まれた名前が、彼を新しい律法へと引き戻す。
署名が終わった人々は、その場を去らない。誰もが、この瞬間が継続することを望んでいるかのように、広場にたたずんだ。夕方の風が吹き、エルサレムの丘に夕日が落ち始めた。西の空が葡萄色に染まる頃、ネヘミヤが最後の言葉を述べた。
「我々は離れない」
それは、宣言というより、祈りのような呟きだった。
人々がそれぞれの家路につくとき、ヨシャフはもう一度、完成したばかりの石の城壁を見上げた。その影が長く伸び、町を覆いつつあった。彼は思った。本当に我々を守るのは、あの石の壁なのか、それとも今日、我々自身の手で粘土に刻んだ、この重い約束なのか、と。
家に着くと、娘が遅かった理由を、興奮した面持ちで話し始めた。友達と、誓約の内容について話し合っていたのだという。彼女の目は、複雑で、どこか輝いていた。
ヨシャフはうなずき、暗くなり始めた部屋で、改めて自分の手のひらを見つめた。そこには、スタイラスを握った時の、微かな粘土の痕がまだ残っていた。




