港町コリントは、朝もやに霞んでいた。塩気を含んだ風が、アゴラの列柱の間をぬうように吹き抜ける。革細工職人のアポロスは、作業場の戸を開けながら、昨日からのもやもやした気分を引きずっていた。仲間内の、あの言い争いのことが頭から離れない。誰かは「私はパウロにつく」と言い、別の者は「いや、わたしはアポロに」、また「ケファにはペトロの権威が」と主張し、ある者は冷ややかに「わたしはキリストに」と宣言する。その「キリストに」という言葉さえ、どこか他者を見下すような響きを持っているように、アポロスには感じられた。
昼過ぎ、エウプロシュネが息を切らしてやって来た。彼女の夫ステファナは、エフェソから届いたという一卷の手紙を受け取ったという。筆者はパウロだ。アポロスは、ためらいがちに、その集まりに加わった。家の奥の、白い漆喰壁の部屋には、数人の顔見知りが集まっていた。窓から差し込む斜めの光線の中を、塵がゆっくりと舞っている。ステファナが羊皮紙を広げ、低く、しかしはっきりとした声で読み始めた。
「神の御心により召されてキリスト・イエスの使徒となったパウロと、兄弟ソステネから……」
冒頭の挨拶が続く。アポロスは、自分が「パウロ派」などと言われていることを思い、少し居心地の悪さを感じる。しかし、パウロの言葉はすぐに核心へと向かった。彼らが抱えている問題そのものへ。
「兄弟たち、わたしはあなたがたについて、クロエの家の者たちから言われたことを、お伝えしなければなりません。あなたがたの間に争いがある、と。」
部屋の空気が張りつめた。誰もが、先週の激しい口論を思い出していた。アポロスは、自分の掌に刻まれた革紐の痕を見つめた。
「あなたがたはそれぞれ、『わたしはパウロにつく』、『わたしはアポロに』、『わたしはケファに』、『わたしはキリストに』と言っている、そうではありませんか。」
そこには、誰の名前もなかった。すべてが、パウロの知るところとなっていた。読み手の声にも、わずかな震えが加わる。
「キリストは分裂させられたのですか。パウロが、あなたがたのために十字架につけられたのですか。それとも、あなたがたはパウロの名によって洗礼を受けたのですか。」
鋭い問いが、部屋を切り裂く。アポロスは思わず、自分が「アポロ派」と言われることへの、ほのかな優越感を恥じた。彼が説教したのは、ただ水を注ぐことであって、成長させたのは神であったはずなのに。いつの間にか、説教者の力量や言葉の巧みさが、信仰の中心にあるかのような錯覚が生まれていた。パウロの言葉は、その小さな偶像を、容赦なく打ち砕いていく。
手紙はさらに深く掘り下げた。神の知恵と、人の知恵について。ギリシャ人は知恵を求め、ユダヤ人はしるしを請う。しかし、神がお示しになったのは、十字架につけられたキリストという、人間の目には「つまずき」であり、「愚か」なものに過ぎない。そこにこそ、神の力と神の知恵がある、と。
アポロスは、ローマの広場で聞いた、洗練された哲学者の議論を思い出した。整然とした論理、修辞的な美しさ。あの言葉の力に、かつては心を奪われそうになった。しかし、パウロが語る十字架の言葉は、それらとは全く異質だった。それは力づくでも論破でもなく、ただ、無力のまま木にかけられた男の物語だ。どこにも知的な優越はなく、権威の誇示もない。逆説的に、それが最も深くアポロスの胸に突き刺さった。
「兄弟たち、あなたがたが召されたときのことを、思い起こしてみなさい。この世の知者が多くはなく、権力ある者も多くはなく、身分の高い者も多くはありません。」
読み上げる声の調子が変わった。力強いというよりは、驚きと感謝に満ちた響きになっている。アポロスは周りを見回した。革なめしのにおいがする自分、漁師だったステファナ、市場で野菜を売るエウプロシュネ、ローマの役人に雇われていた解放奴隷のガイオ…。ここに集う者たちは、確かにこの世の尺度で測れば、取るに足りない者たちだった。誇れるものが何もない。だからこそ、神は選ばれた。誰一人、神の前で誇ることができないように。
「それは、すべての肉なる者が、神の御前で誇ることができないためです。」
夕暮れが近づき、部屋の中はオレンジ色に染まり始めていた。羊皮紙が最後の部分へと進む。
「あなたがたは神によって、キリスト・イエスの内にあります。キリストは、神に由来する知恵となり、義と聖と贖いとなられたのです。『誇る者は主を誇れ』と書いてあるとおりになるためです。」
読み終わった後、長い沈黙が続いた。潮風が窓から流れ込み、蝋燭の炎を揺らした。誰もすぐには口を開かなかった。争いを解決するための「答え」が示されたわけではない。むしろ、彼らが「答え」と思っていたもの―誰につくか、どの集団が正しいか、どの教えが優れているか―それらすべてが、根本から問い直されたのだ。
アポロスは、もやもやしていた心の内が、静かに澄み渡っていくのを感じた。誇るべきは、パウロの雄弁でも、アポロの知識でも、ペトロの直接の経験でもない。ただ、十字架という愚かに見える場所に現れた神の力だけだ。彼は、そっと隣に座る年老いた信徒の、皺の深い手を見た。その手は、何も持っていないように見えた。しかし、その空虚さこそが、神の力を収める器なのだと、初めて悟ったような気がした。
集まりが静かに解かれた。別れの挨拶も、いつもより短く、しかし深い眼差しが交わされた。アポロスは港の方へ歩きながら、水平線に沈みゆく太陽を見つめた。闇が海を覆い始めている。彼は、自分が「アポロ派」などと呼ばれることを、もう気にしていなかった。ただ、あの「愚かな」十字架の話を、明日、隣人にどのように語ろうかと考えていた。飾らず、力まず、自分という器が空であればあるほどに、その話は輝きを増すのだということを、身をもって学んだ気がした。コリントの町に、初めてともしびが灯り始めた。一つ一つは弱くとも、闇を分かつその光は、誰のものでもなく、ただ主のものだった。




