聖書

弟子の足を洗うイエス

エルサレムの都は、過越しの祭りを前にして、一種独特の熱気に包まれていた。路地には羊を連れた農夫の声がこだまし、午後の日差しは石畳を白く焼いていた。その都の、一見何の変哲もない二階座敷で、ことの次第は起きた。

部屋は広く、低い天井には旅の塵がわずかに積もっていた。中央に据えられた長い食卓の周りには、革のサンダルが乱雑に脱ぎ捨てられていた。彼らが入ってきた時、道すがらの埃は弟子たちの足にこびりつき、乾いた土の色を残していた。誰もが、この重苦しい空気を、祭りに向かう緊張のためだと思っていた。確かに、師の口調には近頃、例のない緊迫感があった。しかし、これから起こることを、たった一人を除いて、誰も予想していなかった。

食事が始まる前に、イエスは静かに席を立ち、外衣を脱いだ。粗末な亜麻布の腰布だけになったその姿は、むしろ僕のそれに近かった。弟子たちの会話が、少しずつ途切れていった。彼は手ぬぐいを取り、たらいに水を満たした。水の音だけが、張り詰めた沈黙の中で響く。

最初に彼が足もとに近づいたのは、ペトロではなかった。当惑した目を伏せる弟子、何事かと首をかしげる弟子。彼は一言も発せず、ひざまずき、その弟子の埃だらけの足を、ぬるま湯に浸した。皺の寄った足の裏、爪の間に入り込んだ土。彼の指は、それを丁寧に洗い流し、手ぬぐいで優しく拭いていった。その動作には、慣れた職人の無駄のない静けさがあった。

沈黙は、重く、深かった。やがて、シモン・ペトロの番が来た。彼の目は、師の背中に張り付いたように見つめていた。イエスが彼の足に手を伸ばしたその時、ペトロは我を忘れたようにひるんだ。

「主よ、あなたが、わたしの足を洗おうとされるのですか。」

その声は、当惑を通り越して、ほとんど痛みに満ちていた。弟子である自分が、師からこういう仕打ちを受けるなど、理解を絶していた。イエスは洗う手を止め、ゆっくりと顔を上げた。その目は、ペトロの動揺を深く、静かに見つめている。

「わたしのしていることは、今あなたにはわからない。しかし、後になればわかる。」

だが、ペトロの激情は収まらなかった。誇り高く、直情的なこの男は、ただ拒否するしかなかった。

「決して、わたしの足をお洗いにならないでください。決して。」

その瞬間、イエスの口調に、ほんの少し、鋭いものが走った。それは優しさを失ってはいないが、厳格な、逃れようのない真実の響きを帯びていた。

「もしわたしがあなたを洗わないなら、あなたはわたしと何のかかわりもないことになる。」

ペトロの顔が一瞬で変わった。先ほどの拒絶は、恐怖に取って代わられた。師から切り離されること――それだけは、どんな屈辱にもまさる絶望だった。彼の声は震えた。

「主よ、では足だけでなく、手も頭も洗ってください。」

イエスの表情が、ほんの少し緩んだ。その唇に、深い悲しみと慈愛の入り混じった、かすかな影のような微笑が浮かんだ。

「体を洗った者は、足以外は洗う必要がない。あなたがたは清いのだ。だが、全部が清いわけではない。」

この言葉を、彼は誰に向けて言ったのか。弟子たちは理解できなかった。ただ、部屋の隅で、硬くうつむいた一人の男の影が、微かに揺らめいたように思えた。

洗足は粛々と続けられた。水の音、布が肌を撫でる音。そして、最後の一滴までが拭き取られ、イエスは再び外衣をまとい、元の席に着いた。灯芯草の煙がゆらめく中、彼の顔は深い安らぎに満ちていたが、その奥には、底知れぬ決意の色が沈殿していた。

「わたしがあなたがたにしたことがわかるか。あなたがたはわたしを『先生』とも『主』とも呼んでいる。その言う通りである。ところで、主であり、先生であるわたしが、あなたがたの足を洗ったのだから、あなたがたも互いに足を洗い合わねばならない。わたしがあなたがたにした通りに、あなたがたもするようにと、模範を示したのだ。」

彼の言葉は、部屋の温かな空気の中に、ゆっくりと溶けていった。それは命令というより、彼自身の生き方そのものの開示だった。偉くなること、仕えられることではなく、自ら低くなり、僕として仕えること。そこに、彼が来て示そうとした神の国の逆説的な秩序があった。

彼はパン切れに手を伸ばし、浸してから、わずかにためらい、「わたしがパン切れを浸して与える者が、それだ」と呟くように言った。そして、それが与えられた時、部屋の空気が一瞬で凍りついた。受け取ったのは、イスカリオテのユダだった。彼の目は虚ろで、何か暗い決意に閉ざされていた。パン切れを受け取ると、彼はすぐに席を立った。外は、もうすっかり暗くなっていた。

「しようとしていることを、今すぐしなさい。」

イエスのその一言は、あまりに静かだったため、他の者たちには、何かの用事を言い付けたのかとしか聞こえなかった。ユダは、何も言わずに扉を開け、闇の中に消えていった。

残された者たちの間に、奇妙な空白が広がった。イエスは深く息をつき、目を閉じたように見えた。そして再び目を開けた時、その瞳には、これまでにないほどの深い愛の光が宿っていた。

「子たちよ、いましばらく、わたしはあなたがたと一緒にいる。あなたがたはわたしを探すだろうが、『わたしが行く所にあなたがたは来ることができない』と、ユダヤ人たちに言ったと同じことを、今あなたがたにも言っておく。あなたがたに新しい掟を与える。互いに愛し合いなさい。わたしがあなたがたを愛したように、あなたがたも互いに愛し合いなさい。」

窓の外からは、過越しの祭りの準備をする人々の気配が、かすかに聞こえてきた。だが、この二階座敷の中では、時間が止まったかのようだった。僕としてひざまずく師の姿。洗われて清められた足。闇へ消えていった裏切り者。そして、残された者たちに託された、愛というたった一つの掟。

彼は最後に、ごくわずかに、そして深くうなずいた。すべては、今、動き始めた。祭りの夜は、まだ、これからだった。

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