山の空気は鋭く冷たく、登るにつれて足元の小石がごろごろと音を立てた。ペトロは息を切らしながら、イエスの後ろ姿を見つめていた。なぜヤコブとヨハネと自分だけが選ばれたのか、その理由はわからなかった。ただ、先生が「さあ、来なさい」と言った時の顔は、いつもとは違う、重たい決意に満ちているように見えた。
頂上が近づくにつれ、夕日が山肌を赤く染め始めた。イエスは突然立ち止まり、深く祈り始めた。ペトロたちもそれに倣おうとしたが、疲れからか、瞼が重たく垂れてきた。その瞬間、目の前で何かが起こった。
光があった。と言っても、夕焼けの光とは違う。イエスの全身から、まるで内部に太陽を宿しているかのような白い光が迸り出た。衣は雪よりも白く、この世のどんな洗剤でもあり得ない輝きを放っている。ペトロは思わず目を覆いそうになったが、離れられなかった。ヤコブもヨハネも、凍りつくように見つめていた。
そして、二人の人影が現れた。片方は厳格な面差しの老人、もう片方は荒々しい風貌の預言者。ペトロは直感した。モーセだ。エリヤだ。彼らがイエスと語り合っている。声は風のように聞こえたり、かすれた囁きのように聞こえたりした。「エルサレムで成し遂げようとしている最期について」——その断片だけが、ペトロの鼓動の間に滑り込んできた。
彼は我に返ると、わけのわからないことを口走った。「先生、ここにいるのは素晴らしいことです。もしお望みなら、仮小屋を三つ建てましょう。一つはあなたに、一つはモーセに、一つはエリヤに」
その言葉が終わらないうちに、輝く雲が彼らを包んだ。そして声が響いた。「これはわたしの愛する子、わたしの心に適う者。これに聞け」弟子たちは恐怖のあまり地面に顔を伏せた。誰もが震えていた。イエスが近づき、彼らの肩に手を置いた。「起きなさい。怖がることはない」
顔を上げると、そこにはいつものイエスが立っていた。ただ、目の中に残る深い慈しみは、今までのどんな時よりも強く感じられた。下山の道すがら、イエスは沈黙を守った。三人も口を開けなかった。あの声の響きが、骨の髄までしみついているようだった。ただ、ヤコブがこっそり呟いた。「あの光は……何だったのだろう」
麓に着くと、騒ぎに巻き込まれた。群衆が弟子たちを取り囲み、一人の男が必死に叫んでいる。「お願いです、先生をお呼びください!私の息子がひどく苦しんでいます!」男の目は血走り、服はよれよれだった。弟子たちが癒しを試みたが、何の効果もなかった。
イエスが近づくと、男は泣きながらひれ伏した。「弟子の方たちにはできませんでした。どうかこの子を憐れんでください」
イエスの顔に一瞬、深いため息のような表情が走った。彼は少年の方を向いた。少年は地面に倒れ、口から泡を吹き、歯ぎしりをしていた。人々は遠巻きに見ている。イエスが言葉を発した。「信じないよこしらえの者よ、いつまであなたがたと共にいられようか。その子をここに連れて来なさい」
イエスが厳しく呪われると、少年の体の痙攣はぴたりと止まった。顔から生気が戻り、やがて少年は立ち上がった。人々の間から驚嘆の声が上がった。後で、弟子たちがこっそりイエスに尋ねた。「なぜ私たちにはあの悪霊を追い出せなかったのでしょうか」
イエスは道端の小さな芥子種を指さした。「あなたがたの信仰が薄いからだ。もしからし種一粒ほどの信仰があれば、この山に『ここから移れ』と言っても移るのだ。このたぐいは、祈りと断食によらなければ出て行かない」
それから数日後、カペナウムに戻った時、神殿税を集める者たちがペトロに近づいてきた。「あなたがたの先生は神殿税を納めないのか」
ペトロが「納めます」と答えて家に入ると、イエスが先回りして言った。「シモン、どう思うか。地上の王たちは税を誰から取るのか。自分の子からか、それともほかの人々からか」
ペトロが「ほかの人々からです」と答えると、イエスは穏やかに微笑んだ。「では、子は納めなくてもよいわけだ。しかし、彼らをつまずかせないために、湖に行って釣りをしなさい。最初に釣れた魚の口を見なさい。銀貨があるから、それを取って、わたしとあなたの分として納めなさい」
ペトロは湖に向かう道で、あの山の光を思い出していた。銀貨が魚の口にあることを知っている方。光り輝く衣をまとう方。それでも、神殿税というささやかな義務を疎かにしない方。先生とはいったい……。そう考えながらも、彼は糸を垂れた。夕日が湖面を金色に染め、遠くで魚が跳ねた。すべてが、あの山の上の経験とは違う、日常の穏やかさに包まれていた。ただ、彼の心の奥では、からし種のような小さな確信が、静かに根を下ろし始めているのを感じていた。




