夕刻の風が、シオンの山頂を撫でて過ぎた。空はまだ薄明かりを留めていたが、東の地平線には最初の星が一つ、かすかに瞬いていた。そこに、彼らは立っていた。数えきれないほどの人々。十四万四千という数が、もはや数字として意味をなさないほどの充満。その額には、父なる神の名が記されている。海のざわめきのような、かすかな賛美の声が、風に乗って流れてきた。それは習った歌ではなく、心の奥底から湧き上がる、新しい歌だった。彼らだけが歌うことを許された旋律。地から贖われた者たちの、傷のない声。
その中に一人、ヨハネという名の老人がいた。彼は目を細め、眼前に広がる光景を記憶に刻もうとしていた。パトモスの島で見た幻が、今、これほどまでに鮮烈に目の前に広がっていることに、言葉を失っていた。彼らの白い衣は、夕闇の中で微かに輝き、小羊の血によって洗われたというその白さは、この世の何ものにも例えようがなかった。
突然、空が裂けた。というより、空そのものが意味を成さなくなるほどの存在が、中天に現れた。最初は一点の光のように見えたそれが、たちまち翼を広げた御使いの姿となった。その顔には、永遠の福音を帯びた厳かさが漂っている。声は雷のようでありながら、個々の心の奥深くに静かに響く、優しさを併せ持っていた。
「神を畏れ、栄光を帰せよ。神の裁きの時が来たからだ。天と地と海と水の源を創造した方を礼拝せよ。」
その声は、平原や谷間、崩れかけた都市の跡、海辺の漁村に至るまで、地の果てまで届いた。眠りにつこうとしていた者も、剣を握りしめていた者も、その言葉を聞いて、手を止めた。永遠の福音。時を超えた、変わることのない救いの知らせ。それが、今、裁きの宣告と共に鳴り響いた。矛盾のようでありながら、そこには深い、取り返しのつかないほどの真実が横たわっていた。
まだ最初の御使いの声の余韻が大地に残っている中、二番目の御使いが続いた。その声には、悲しみのような、しかし決意に満ちた力があった。
「倒れた。大いなるバビロンは倒れた。すべての国に、その姦淫の怒りの酒を飲ませた者。」
バビロン。その名を聞いた時、ヨハネの脳裏に、かつて見た幻がよみがえった。紫色や緋色の衣をまとい、金と宝石と真珠で身を飾った女。そして、彼女に酔いしれた地の王たち。彼は思わず目を閉じた。繁栄の極みと呼べるものの、その根底に流れる虚無。人間の手で築かれたすべての華やかさが、砂の城のように崩れ去る様が、目に浮かんだ。
そして三番目。その御使いの表情は、前の二者よりも一層厳しく、言葉一つ一つが火のように燃えていた。
「もし、獣とその像を拝み、額や手に刻印を受ける者があれば、その者は、神の怒りの杯に混ぜ物なしに注がれた神の怒りの葡萄酒を飲む。また、聖なる御使いたちと小羊との前で、火と硫黄とで苦しめられる。その苦しみの煙は、永遠にまでも立ち上る。彼らには昼も夜も休みがない。」
沈黙が訪れた。重い、圧縮されたような沈黙。それは、宣告の余韻というより、選択を迫る最終的な間(ま)のように感じられた。刻印。それは目に見えるしるしではなかったかもしれない。思想であり、帰属であり、この世における生への全面的な同意の証し。それに対して、額にある父の名。見えないが、存在を決定づけるしるし。二つの刻印。二つの帰属。その狭間で、地上に生きる者たちの息遣いが聞こえるようだった。
ヨハネは、ふと自分が涙しているのに気づいた。恐怖の涙ではない。言葉に尽くせない悲しみと、それでもなお輝く希望との、入り混じった涙だった。彼は、小羊がどこにおられるのか、視線を泳がせた。
そして見た。白い雲。その上に、人の子のような方が座っておられる。頭には金の冠。手には鋭い鎌。もう一人の御使いが神殿から出て来て、大声で叫んだ。
「鎌を入れよ。刈り入れ時が来た。地の穀物はすでに熟している。」
雲の上の方が地に鎌を振るう。すると、地はまるで息をひそめたかのようになった。そして、豊かな実りが、ゆっくりと、しかし確実に集められていった。これは、地上からの収穫。神のものとされた者たちの集い。苦難と忍耐の末に、実を結んだ穂たち。ヨハネは、彼らの中に知った顔を見つけようとした。かつて共にいた者たち。ローマで狼に渡された者。エフェソで病に伏した兄弟。彼らは、今、この収穫の中にいるのだろうか。
再び、天の神殿から別の御使いが現れた。彼もまた鋭い鎌を持っている。そして、もう一人の、火を支配する権威を持った御使いが祭壇のところから出てきて、大声で言った。
「その鋭い鎌を入れよ。地の葡萄の房を摘み取れ。そのぶどうはすでに熟している。」
今度の収穫は、前者とは全く異なる様相を帯びていた。それはもはや穏やかな刈り入れではなく、激しい、否応ない摘み取りだった。御使いは地に鎌を入れ、地の葡萄を集め、神の怒りの大きな酒ぶねに投げ込んだ。
酒ぶねは、都の外で踏まれた。すると、血が酒ぶねから溢れ出て、馬のくつわに届くほどになり、はるか遠くまで、千六百スタディオンにわたって流れた。
その光景は、ただ残酷なだけではなかった。そこには、ある種の必然の、重い荘厳ささえ感じられた。悪というものが、自ら熟し、ついに収穫されざるを得ないまでの状態に至った、その果ての様。姦淫の酒をふんだんに飲ませたぶどうの木は、ついに怒りの葡萄酒そのものとなって返ってくる。すべての行為が、いずれその実を結ぶという、宇宙を貫く理(ことわり)。ヨハネはその血の川を眺めながら、預言者イザヤの言葉を思い出していた。「わたしはひとりで酒ぶねを踏んだ。もろもろの民のうち、わたしと共にいる者はなかった。」
ふと、風の音が変わった。かすかに聞こえていた十四万四千人の歌声が、次第に力を増し、あたり一面を満たし始めた。それは、もはや海のざわめきなどではなく、多くの水の音、また激しい雷のような大音声に変わっていった。彼らは、琴を弾きながら、新しい歌を歌っていた。
「あなたのみわざは大いなる、また驚くべきものよ。万国の王よ。あなたの道は正しく、まことである。」
空は完全に暗くなり、星々がきらめいていた。御使いたちの姿は消え、シオンの山頂には再び静寂が訪れた。しかし、何かが決定的に変わっていた。空気そのものが、刈り入れの終わった秋の野原のように、清らかで、きりっと澄み渡っている。裁きの宣告はすでになされ、収穫は始まっていた。あとは、時がそのとおりに運ばれるのを待つだけだ。
ヨハネは震える手を、自分の胸に当てた。そこには、年老いた肉体の鼓動があった。彼は今、この幻のただ中に立っている。そして、やがて来るべき日のために、この言葉を書き記さねばならない。インクと羊皮紙が必要だ。だがそれ以前に、彼はしばらくの間、ただ暗闇に佇み、耳を澄ませた。遠く、地の果てから、御使いの言葉がまだ響いているような気がした。
「神を畏れよ。栄光を帰せよ。」
風が山肌を駆け上がり、彼の白髪を揺らした。やがて、東の空がわずかに白み始める頃、彼は静かに歩き出した。背中には、新しい歌のわずかな余韻が、こだまのように纏わりついていた。




