過越の祭りのためのエルサレムは、昼間の熱気が石畳に残るような夜だった。家の上の間に集まった者たちの顔は、一つ二つと灯されるオリーブ油のランプに揺らめき、壁に巨大な影を投げかけていた。外はすっかり闇に包まれ、部屋の中には、食べ残された食事の匂いと、張り詰めた静けさが漂っている。ペトロが突然何か言おうとして口を開いたが、結局ため息だけで、再び俯いた。
イエスは皆を見回した。その目は、いつもの深い静けさを湛えているようでありながら、どこかこの場にない遠いものを見ているようでもあった。やがて、彼は静かに話し始めた。
「心を騒がせてはならない。神を信じなさい。そして、わたしを信じなさい。」
言葉は沈黙の中に落ちていった。誰もすぐには応答できない。なぜなら、ここ数時間、いやここ数日、不安がじわりと彼らの胸に巣くっていたからだ。祭りの群衆の熱狂、祭司長たちの冷たい視線、そしてイエス自身が仄めかす「去りゆく時」――すべてが、何か不可避なものが迫っていることを示していた。
「父の家には、住む所がたくさんある。」イエスの声は低く、確かな調子だった。「もしなかったら、わたしはそう言うだろうか。あなたがたのために場所を用意するために、わたしは出かけて行くのだ。場所を用意したら、また来て、あなたがたをわたしのもとに迎える。わたしのいる所に、あなたがたもいることになるために。」
トマスが顔を上げた。彼の眉には、常に巣くうような疑いの皺が寄っていた。「主よ、どこへ行かれるのか、わたしたちには分かりません。どうして、その道を知ることができるでしょうか。」
ランプの火がぱちりと音を立てた。イエスはトマスをじっと見つめた。その視線は鋭くもあり、同時に途方もない優しさに満ちていた。
「わたしが道であり、真理であり、命なのだ。わたしを通らなければ、だれも父のもとに行くことはできない。もしあなたがたがわたしを知っているなら、わたしの父をも知ることになる。今から、あなたがたは父を知る。いや、既に父を見ているのだ。」
後ろの方で、ピリポがもぞもぞと体を動かした。彼は真面目で、几帳面な男だ。イエスの言葉はあまりにも大きすぎる。具体的な形が欲しい。彼は思わず口を開いた。「主よ、わたしたちに父をお示しください。そうすれば満足します。」
その瞬間、イエスの顔に、かすかな、しかし深い悲しみのようなものが走った。それは、長い間共に過ごした者が、なお理解されない寂しさだったかもしれない。
「ピリポ、こんなに長く一緒にいるのに、わたしが分かっていないのか。わたしを見る者は、父を見るのだ。どうして、『わたしたちに父をお示しください』と言うのか。わたしが父の内におり、父がわたしの内におられることを、信じないのか。わたしが話す言葉は、自分から話しているのではない。わたしの内におられる父が、ご自分の業をなさっているのだ。」
彼は少し間を置き、部屋の重い空気を切り裂くように言葉を続けた。
「わたしを信じる者は、わたしの行う業を行い、さらに大きな業を行うようになる。わたしが父のもとへ行くからだ。また、わたしの名によって願うことは何でもかなえてあげよう。わたしが父に栄光を現すためである。」
大きな約束だった。しかし、弟子たちの頭の中は、もっと切実な疑問で一杯だった。この人が去ってしまうなら? 一人きりになってしまうなら? イエスは、彼らが口にしない問いを聞き取ったかのように、語りかけた。
「わたしは父にお願いしよう。父はもうひとりの助け主をあなたがたに送って、永遠にあなたがたと共におられるようにしてくださる。その方は真理の霊である。世はその方を受け入れることができない。見ることも知ることもないからだ。しかし、あなたがたはその方を知っている。その方はあなたがたと共におり、またあなたがたの内にいるからだ。」
「助け主」――パラクレートス。そばに立って呼びかけ、励まし、弁護する者。その言葉は、冷えた彼らの心に、微かな温もりのようなものを灯した。しかし、まだ茫漠としている。霊とは? どのように?
イエスは続けた。「わたしは、あなたがたをみなしごとしては置かない。あなたがたのところに戻って来る。しばらくしたら、世はもうわたしを見なくなる。しかし、あなたがたはわたしを見る。わたしが生きるので、あなたがたも生きるからだ。その日には、わたしが父の内におり、あなたがたがわたしの内におり、わたしがあなたがたの内にいることが、あなたがたに分かる。」
ランプの煙が天井に向かってゆらりと揺れる。遠くで、夜警を告げるラッパの音がかすかに聞こえた。イエスの声は、さらに柔らかく、しかし核心を突くものになっていた。
「わたしの戒めを保ち、それを守る人は、わたしを愛する人である。わたしを愛する人は、わたしの父に愛される。わたしもその人を愛し、その人にわたし自身を現す。」
すると、ユダ――イスカリオテでない方のユダが、小声で尋ねた。「主よ、ご自分をわたしたちに現そうとなさるのに、世には現そうとなさらないのは、なぜでしょうか。」
「わたしを愛する人は、わたしの言葉を守る。父はその人を愛され、わたしたちはその人のところに行き、共に住む。わたしを愛さない人は、わたしの言葉を守らない。あなたがたが聞いている言葉は、わたしのものではなく、わたしをお遣わしになった父のものなのである。」
彼は深く息を吸い、今までで最も静かな、しかし部屋中に浸透するような声で言った。
「これらのことは、あなたがたと一緒にいる間に、話しておいた。しかし、助け主、すなわち、父がわたしの名によってお遣わしになる聖霊は、あなたがたにすべてのことを教え、わたしが話したことをことごとく思い起こさせてくださる。」
窓の外から、オリーブの木の葉が風に擦れる音が聞こえた。夜は更けていく。イエスはゆっくりと立ち上がり、ランプの光が彼の横顔を浮かび上がらせた。
「平和をあなたがたに残す。わたしの平和を与える。わたしが与えるのは、世が与えるようなものではない。心を騒がせるな。怯えるな。『わたしは去って行くが、また、あなたがたのところに戻って来る』と言ったのを、あなたがたは聞いた。もしわたしを愛しているなら、父のもとへ行くので、喜ぶべきである。父はわたしよりも偉大な方だからである。」
「事が起こる前に、今、話しておく。事が起こったとき、あなたがたが信じるようにするためだ。もはや、多くをあなたがたと語るまい。世の支配者が来るからである。だが、彼はわたしに対して何もできない。世が、わたしが父を愛していることを、また、父がお命じになったとおりにわたしが行っていることを知るように。」
彼は最後に、ほとんど囁くように言った。「立て。ここから出かけよう。」
弟子たちは、ゆっくりと立ち上がった。それぞれの胸には、理解しきれない約束と、消化できない不安と、それでもどこかに灯された小さな希望とが入り混じっていた。イエスの言葉は、まだ完全な意味を成していない。道しるべのように、暗闇にぽつんと投げられた石のように、ただそこにある。
外の冷たい夜気が部屋に流れ込んだ。彼らはランプを手に、暗い階段を降り始める。足音だけが石の上に響く。イエスは先頭に立っていた。その背中は、闇に吸い込まれそうでありながら、確かにそこにある道そのもののように、彼らを導いて行くのだった。




