聖書

祈りに満たされる平安

エウプロシュネは、一日の終わりにやってくる薄暗がりが最も苦手だった。窓の外、フィリピの街路に灯されるオリーブ油の灯りは、彼女の居間の壁にゆらめく長い影を落とす。その影のように、心の中にも幾つものかたちのない思い煩いが蠢いていた。夫アンデロスの商売は、このところローマからの船便が乱れ、思うように織物が届かない。長男の熱は下がったものの、まだ頬が火照っている。明日の食卓に並べるものについて、そして、この家のごく近くまで迫っていると言われる、あの皇帝礼拝の強要について――。彼女はため息をつき、手にしていた亜麻の布を膝の上に落とした。その布は、少し歪んだ模様だった。織りながら、つい別のことを考えてしまったのだ。

二日前の集会で、テキコが朗読した言葉が、ふと耳奥でよみがえった。パウロという、鎖につながれた使徒からの手紙だ。「主において常に喜びなさい。重ねて言います。喜びなさい。」あの時、彼女は首をかしげたままだった。喜べ、と? この胸の内に淀む、濁った水のような不安を前に? その直後に読まれた言葉が、今、少しずつ染み込むように思い出される。「どんなことでも、思い煩うのはやめなさい。何事につけ、感謝を込めて祈りと願いをささげ、求めているものを神に打ち明けなさい。」

「祈りと願いを…か。」
彼女は呟くと、床に膝をついた。整然とした祈りの言葉など浮かばない。代わりに、心の内にあるそのままのざわめきが、無造作に溢れ出した。主よ、アンデロスの船が無事であるように。主よ、子供の体を癒してください。主よ、私たちがあなただけを礼拝する勇気を。主よ、この歪んだ織物さえ、何かの役に立ちますように――一つひとつ、取るに足らない、大小入り混じった願い。そして最後に、ふと、感謝らしきものがあった。今日、隣家の老女が分けてくれた黒いパン。夕べ、夫が無事に帰宅したこと。集会で兄弟姉妹と共に唱えた「アーメン」の響き。

彼女はいつまでもそこにいたわけではなかった。子供が咳をしたので、水を飲ませに立ち上がった。しかし、立ち上がった時、何かが違っていた。胸のあたりにあった重い石が、少しだけ転がり、形を変えたような。不安が消えたわけではない。しかし、その不安が、全てを飲み込む海ではなくなった。ただ、そこに在るものの一つになった。そして、不思議な平穏が、その波間を漂い始めていた。それは、理解を超えた何かだった。まるで、昼の暑さを和らげる、海から昇る夜風のように。彼女はその風に、守られていることを感じた。

次の日、市場に向かうアンデロスの背中を見送りながら、エウプロシュネはまた思い出した。手紙の後の言葉。「そうすれば、あらゆる人知を超える神の平和が、あなたがたの心と考えとをキリスト・イエスによって守るでしょう。」守る、という言葉が心に残った。城壁のように。彼女の心は城塞ではなかった。むしろ、風に揺れる葦の家のようだ。だが、その家を、見えない大きな手が支えているような気がした。

その日は、思いがけない訪問者があった。ローマの百人隊長の妻、クラウディアである。彼女は以前、エウプロシュネの織る布の模様を気に入り、時折、求めに来ることがあった。今日も注文の話かと身構えたエウプロシュネに、クラウディアはためらいがちに言った。「あなた方の集う…その神について、聞かせてほしいの。」彼女の目には、ローマの女神々では満たされぬ空洞があった。

エウプロシュネは一瞬、何を話せばよいか分からなかった。しかし、パウロの言葉がまた浮かんだ。「最後に、兄弟たち、すべて真実なこと、すべて気高いこと、すべて正しいこと、すべて清いこと、すべて愛すべきこと、すべて名誉なことを、また、徳や称賛に値することがあれば、それを心に留めなさい。」難しい教えを説く必要はないのだ。真実なこと。気高いこと。彼女は、自分の家族について、隣人について、そして自分が今、感じているこの不思議な平安について、ありのままを話し始めた。クラウディアが去った後、エウプロシュネは、自分がまるで器のようだったと感じた。空の器ではなく、満たされた器が、自然と溢れ出ただけだった。

数日後、夫アンデロスが珍しく早く帰宅し、興奮した面持ちで話した。港で会った商人が、アンデロスの正直な商いを気に入り、遅れていた船便とは別のルートを紹介してくれたという。「全く、あの商人は、なぜかこちらの利益まで考えてくれるんだ。」アンデロスが首を振りながら言う。エウプロシュネは、それらの出来事を、バラバラの糸のように思った。自分の祈り。クラウディアとの会話。そして夫の商談。それらが、見えない織機にかけられ、一つの布となっていく。歪んだ模様の布さえも、どこかで役に立つ布として織り直されているような。

その夜、彼女は再び祈った。今回は願いよりも、感謝が多かった。そして、自分の内側に広がる静けさを味わった。それは、全てが解決したからではない。むしろ、全てが神の手の中にあると知ったからだ。パウロが「わたしは、わたしを強めてくださる方のおかげで、すべてのことをすることができます」と書いた意味が、皮膚感覚で分かった気がした。強められる、というのは、自分が超人になることではない。この弱い、悩むままの自分が、それでも支えられて立っているという事実。その土台の上に立つこと。

月日は流れ、皇帝礼拝の圧力は増した。ある日、町の広場で像に香を焚く儀式が強要されるという知らせが届いた。信徒たちの間に動揺が走る。集会では、沈黙が重かった。その時、いつもは無口な年老いた信徒ルカが、ゆっくりと口を開いた。「兄弟姉妹よ。私たちの心は、何によって守られているのか。」彼は続けなかった。しかし、エウプロシュネははっきりと悟った。この胸の中にある平安、それは誰も奪うことができない。この平和こそが、彼らを脅威のただ中にあっても、真実で気高いことを思い留めさせ、立たせておく砦なのだ。

家路につく夕暮れ、エウプロシュネは窓辺に立った。再び影が伸びる時間だ。しかし今日、彼女はその影を恐れなかった。闇は深い。だが、闇の向こうに、闇を超える光があることを、彼女は知っていた。心に留めるべきこと、それは今、この瞬間にも、隣家から聞こえる子供の笑い声、炉の中で燃える薪の匂い、そして、全てを委ねることのできるお方への信頼だった。彼女はごく自然に、唇が緩むのを感じた。それは、命令されたからではない。溢れ出るものだった。

「ああ、」彼女は呟いた。「これが、喜びなのだ。」

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