聖書

水に投ぐパンの行方

秋の深まりと共に、風はカレドの谷から鋭い息を吹き下ろしてきた。ヨナタンは石垣の縁に腰を下ろし、手にしたオリーブの木片を無意識に弄びながら、西の空に湧き上がる雲の群れを見つめていた。雲は灰色から鈍い鉛色へと変わり、遠雷のような気配が地を這う。今年の雨は遅い。あまりに遅すぎる。彼の指先には、長年の農作業で刻まれた亀裂が土色に染まっていた。

「父さん、小麦の種はもう戻しておいたよ。」

息子のエリアスが陽気な声で近づいてきた。十六歳の頬には、初めての髭の影が薄く浮かんでいる。ヨナタンはうなずきながら、ふと、この子が自分のように土に縛られる人生を送るのかと思った。そして、それと同時に、ある言葉が胸の奥で揺れた。――「あなたのパンを水の上に投げよ。多くの日の後、それを見いだそう。」 あの伝道者の言葉だ。父から聞かされ、自分でも巻物を繰りながら幾度か出会ったその勧めは、実際的でないばかりか、無謀にさえ思えた。パンを水に投げれば、流されるか、沈むだけではないか。

その翌朝、谷間の小道で彼は隣人シムオンに出会った。シムオンのラバはよろよろと歩き、背負った籠からは大麦の穂がまばらに覗いていた。「旱魃が丘の畑を焼いた。」シムオンの声には張りがなかった。家族は七人。ヨナタンの脳裏に、痩せた子供たちの顔が浮かんだ。彼は何も言わず、自分の蔵へ戻り、蓄えておいた小麦を二袋、シムオンの家の前にそっと置いた。エリアスが心配そうな顔をしているのを感じたが、彼は「多くの日の後」という言葉を噛みしめていた。計算ではない。風任せのような行為が、なぜ聖なる言葉に記されているのか。

数日後、風向きが変わった。東から湿った風が吹き始め、ある午後、ついに雨がカラカラに乾いた大地を打った。雨粒は最初、土の上で小さな煙を上げたが、やがて土は深く渇きを癒すように水を吸い込んだ。ヨナタンは軒下に立ち、雨の匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。雲がどこから来るか、雨を満たした胎がどのように破れるか――それを知る者は誰もいない。まるで、人の歩みの全てが、見えざる手の内にあるようだった。彼は思った。自分がシムオンに与えた小麦が、いつか自分に返ると信じてしたことではない。ただ、その時、与えるべきだと感じたからだ。結果は、風の吹くままに任されている。

雨上がりの地面は柔らかく、種を蒔くには申し分ない。しかし空はまだ晴れ間が定まらない。長老たちは皆、もうしばらく待てという。嵐が再来するかもしれないからだ。ヨナタンは手の平に小麦の種を載せてみた。黄金色の小さな命。彼は「朝に種を蒔け、夕にも手を休めるな」という言葉を思い出した。どちらの場合が実るか、あなたは知らないのだから――そう、伝道者は続けていた。

「エリアス、種袋を持て。」

息子は驚いた顔をしたが、父の声に従った。二人は湿った畑に歩み入り、ヨナタンが鍬で溝を切り、エリアスが種を落として土をかぶせた。北の空にはまた雲が湧き始めていた。隣人たちは戸口から首を出し、あのヨナタンは気が早いと囁き合った。彼自身、胸中に不安がないわけではなかった。しかし、知らないことのために足を止めるより、出来ることをするうちに道が開けるかもしれない、そんな気がしていた。種は土に隠れ、その行方は雨と太陽と、計り難い時の流れに委ねられた。

その夜、ヨナタンは家の屋根に上がった。雨上がりの空気は澄み切っており、無数の星が谷を優しい光で包んでいた。東の丘の端から三日月が昇り、細い銀の鎌が闇をそっと刈り取っていく。彼は深呼吸した。暗闇もまた美しい。長生きするなら、すべての日を楽しめ――伝道者の言葉が、今は違って響いた。楽しむとは、所有することではなく、この瞬間に在ることかもしれない。星の光は千年の時を旅して、今、彼の瞳に届いている。全ては移り変わる。この畑も、家も、自分自身さえも。

下からエリアスの笑い声が聞こえてきた。母親が何か面白い話をしているらしい。ヨナタンはふと、この息子の将来を考えた。若い日にこそ、心のままに歩め。しかし、その行く先々を神が覚えておられることも忘れるな――あの言葉は若者への祝福であり、同時に深い戒めでもあった。彼自身、若い日を振り返れば、無謀なほどに情熱に駆られた日々があった。今ではそのいくつかを悔いるが、それでもあの日々が今の自分を形作ったのだ。

半月が中天に達した頃、ヨナタンはゆっくりと梯子を降りた。台所では妻が明日のためのパンを焼き終え、炉の残り火がほのかに顔を赤く染めていた。彼は一片の温かいパンを手に取り、少しちぎって口に含んだ。麦の香りが広がる。パンは水の上に投げられたわけではない。しかし、彼がシムオンに与えた袋は、いつか見知らぬ形で実を結ぶかもしれない。結ぶかどうかは、自分が知るべきことではない。

窓の外で、風がまたそよぎ始めた。彼は暗闇を見つめながら、ただ農夫として、父として、今日為すべきことを為したという満足感に包まれた。明日のことは明日の風が運んでくる。その風を起こされる方だけが、全ての道を知っておられる。ヨナタンは炉の傍らに座り、ゆっくりと目を閉じた。闇の中でも、種は土の下で静かに息をしているのだ。

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