**聖霊の賜物と秩序ある礼拝**
コリントの街は、エーゲ海の輝く青に囲まれ、商業と文化の賑わいで知られる大都市であった。しかし、その華やかさの裏側では、人々の心はしばしば混乱と分裂に陥っていた。コリントの教会も例外ではなく、信徒たちは霊的賜物をめぐって争い、礼拝の秩序が乱れることが多かった。
ある安息日、教会の集会所は信徒たちで満たされていた。窓から差し込む陽光が石造りの床を照らし、人々の熱気で部屋は暖かく包まれていた。しかし、その中で異言を語る者たちが一斉に声を上げ、預言を語る者たちの言葉がかき消されるような状態が続いていた。
その時、パウロの手紙が読み上げられた。
「兄弟姉妹たち。あなたがたが霊的賜物を熱心に求めるのは良いことです。しかし、教会の徳を高めるためには、異言よりも預言を求めなさい。異言を語る者は人に向かって話すのではなく、神に向かって話します。彼は霊によって神秘を語りますが、だれも理解できません。しかし、預言者は人々の徳を高め、慰め、励ましをもたらすのです。」
会衆の中にいたアレクサンドロスという男は、これまで異言を誇りに思っていた。彼は目を閉じ、熱心に祈り、時に理解できない言葉を発していた。しかし、パウロの言葉を聞き、はっとした。彼の隣には、信仰の浅いテオドロスが座っていたが、アレクサンドロスの異言を聞いてただ困惑するばかりだった。
パウロの手紙はさらに続いた。
「もし異言を語るのであれば、解き明かす者がいなければ、教会には何の益もありません。兄弟たち、どうか思慮深くありなさい。あなたがたが異言を語る時、解き明かす者がいなければ、黙っていなさい。神は混乱の神ではなく、平和の神なのです。」
その言葉を聞いて、教会の空気が変わった。異言を語っていた者たちは静かにうなずき、預言者たちが前に進み出た。その中には、年老いた女預言者プリスカもいた。彼女は柔和な声で語り始めた。
「主はこう言われます。『わたしの民よ、互いに愛し合い、知恵をもって歩みなさい。あなたがたの賜物は、自分を誇るためではなく、教会を建て上げるためなのです。』」
その言葉は、会衆の心に深く響いた。アレクサンドロスは、これまでの自分の態度を悔い、テオドロスに近づいて言った。
「兄弟、私の言葉があなたを混乱させていたなら、許してください。これからは、理解できる言葉で、共に信仰を分かち合いたい。」
テオドロスは微笑み、二人は祈りを共にした。
礼拝が終わる頃、教会には秩序と平安が満ちていた。人々は互いに励まし合い、聖霊の導きを感じながら家路についた。パウロの教えは、コリントの教会に新たな調和をもたらしたのである。
「すべてのことを適切に、秩序をもって行いなさい。」(Ⅰコリント14:40)
こうして、コリントの信徒たちは、賜物の正しい用い方を学び、愛と知恵をもって歩むことを決意したのだった。