**申命記6章に基づく物語:心に刻まれる契約**
荒野の風が、乾いた砂を舞い上げる。太陽が灼熱の光を降り注ぐ中、モーセは岩の上に立ち、集まったイスラエルの民を見渡した。長い旅路で疲れた顔をした者もいれば、これからの約束の地への期待に目を輝かせる者もいた。しかし、彼らが今、最も必要としていたのは、神の言葉を心に刻むことだった。
モーセは深く息を吸い、神から授けられた言葉を力強く語り始めた。
「聞け、イスラエルよ。主は私たちの神。主は唯一である。」
彼の声は静かでありながら、民の心に深く響いた。この言葉は、ただの教えではなく、彼らの存在そのものを支える真理だった。
「あなたは心を尽くし、魂を尽くし、力を尽くして、あなたの神、主を愛しなさい。」
モーセの目には、かつてエジプトで奴隷として苦しんだ日々、紅海が分かれた奇跡、荒れ野で与えられたマナの記憶がよみがえった。神は常に共におられ、彼らを導かれた。その愛に応えるため、民は全身全霊で神に従わなければならない。
「私が今日、あなたに命じるこれらの言葉を心に刻みなさい。」
モーセは言葉を続け、父から子へ、代々語り継ぐように命じた。
「家に座っているときも、道を歩くときも、寝るときも、起きるときも、これを語り聞かせなさい。」
彼は、神の言葉が日常生活のあらゆる場面で生きることを望んだ。それは、ただの規則ではなく、命そのものだった。
「これをしるしとして手に結び、記章として額につけなさい。家の門柱と門にも書き記しなさい。」
民の中には、これらの言葉を羊皮紙に書き、小さな箱(メズーザー)に入れて戸口に貼る者もいた。また、腕や額に身につける者もいた。それは、神の教えが彼らの歩みのすべてを導くためだった。
モーセは最後に、約束の地に入った後のことを語った。
「主があなたの先祖、アブラハム、イサク、ヤコブに与えると誓われた地に入るとき、あなたは自分で建てたのではない、大きな町々、あなたが満たしたのではない、豊かな財産を得る。」
しかし、彼は警告した。
「そのとき、心が高ぶり、主を忘れてはならない。『この富は私の力、私の手の働きで得たものだ』と言ってはならない。」
すべては神の恵みによるもの。そのことを忘れず、常に神に従うこと——それが、真の知恵だった。
モーセの言葉が終わると、民は静かにうなずいた。彼らの心には、神の言葉が深く刻まれていた。荒野の風が再び吹き抜け、彼らは新たな決意をもって、約束の地へと進んでいくのだった。
**(終わり)**