聖書

「癒しと赦しの権威――マタイ9章の物語」

**タイトル:癒しと赦しの権威――マタイによる福音書第9章の物語**

イエスがカペナウムの町を去り、ご自分の町へ帰られると、人々はすぐにそのうわさを聞きつけ、大勢の群衆が集まってきた。家の中も庭先も人で埋め尽くされ、人々はイエスの口から出る一つ一つの言葉に耳を傾けていた。

そのとき、四人の男たちが、中風で寝たきりの友人を担いで来た。彼らはイエスに会わせたい一心で、家の入口まで来たが、あまりの人の多さに近づくことさえできなかった。しかし、彼らは諦めなかった。「どうしてもイエス様のところへ連れて行こう」と話し合い、屋根に上ると、瓦を剥がし、病人の寝ている床をつり降ろした。

イエスは彼らの信仰を見て、深く心を動かされた。そして、床の上の男に目を注ぎ、優しく言われた。「子よ、しっかりしなさい。あなたの罪は赦された。」

すると、そこにいた律法学者たちの心に疑いが生じた。「この人は神を冒涜している。罪を赦すことができるのは神だけなのに」と彼らは心の中で思った。

イエスは彼らの心を見抜き、言われた。「なぜ、あなたがたは心の中で悪いことを考えているのか。『あなたの罪は赦された』と言うのと、『起きて歩け』と言うのと、どちらが易しいか。しかし、人の子が地上で罪を赦す権威を持っていることを知らせよう。」そして、中風の人に向かって、「起きなさい。床を取り上げて、家に帰りなさい」と命じられた。

すると、その人はすぐに起き上がり、床を担ぎ、人々の間を通って家に帰って行った。群衆はこれを見て恐れ、このような権威を人に与えた神を賛美した。

イエスがそこから進んで行かれると、マタイという名の取税人が収税所に座っているのを見かけられた。イエスは彼に「わたしに従いなさい」と言われた。すると、マタイはすぐに立ち上がり、イエスに従った。

その夜、マタイの家で大勢の取税人や罪人たちがイエスとともに食卓に着いていた。これを見たファリサイ派の人々は、イエスの弟子たちに言った。「なぜ、あなたがたの先生は取税人や罪人たちと食事を共にするのか。」

イエスはこれを聞き、言われた。「医者を必要とするのは、健康な人ではなく病人である。『わたしが喜び求めるのは憐れみであって、いけにえではない』とはどういう意味か、行って学びなさい。わたしが来たのは、正しい人を招くためではなく、罪人を招くためである。」

そのころ、ヨハネの弟子たちがイエスのところに来て、「なぜ、わたしたちやファリサイ派の人々は断食するのに、あなたの弟子たちは断食しないのですか」と尋ねた。

イエスは答えられた。「婚礼の客は、花婿が一緒にいる間、悲しむことができるだろうか。しかし、花婿が奪い去られる日が来る。そのときには、彼らは断食するであろう。だれも、新しい布で古い服に継ぎを当てたりはしない。そんなことをすれば、継ぎが服を引き裂き、破れがもっとひどくなる。また、新しいぶどう酒を古い皮袋に入れる者はいない。そうすれば、皮袋は破れ、酒も袋もだめになる。新しいぶどう酒は新しい皮袋に入れるべきである。」

イエスがこれらのことを話しておられると、ある会堂長がやって来て、ひれ伏して言った。「わたしの娘が今死にました。しかし、どうか来て手を置いてやってください。そうすれば、娘は生き返るでしょう。」

イエスは立ち上がり、弟子たちとともにその人に従って行かれた。すると、そこへ十二年間も長血を患っている女が、後ろから近づき、イエスの衣のふさに触れた。「この方の衣にでも触れれば、わたしは癒される」と思ったからである。

イエスは振り向き、彼女を見て言われた。「娘よ、しっかりしなさい。あなたの信仰があなたを救った。」すると、女はその瞬間から癒された。

イエスが会堂長の家に着くと、笛吹きたちや騒がしい群衆がいて、大変な騒ぎになっていた。イエスは言われた。「あちらへ行きなさい。少女は死んだのではない。眠っているのだ。」すると、人々はイエスをあざ笑った。

しかし、群衆を外に出した後、イエスは少女の手を取られると、少女はすぐに起き上がった。このうわさはその地方全体に広まった。

イエスがそこから進んで行かれると、二人の盲人が「ダビデの子よ、わたしたちを憐れんでください」と叫びながらついて来た。家の中に入ると、盲人たちはイエスの前に立った。イエスは「わたしにそれができると信じるか」と尋ねられると、彼らは「はい、主よ」と答えた。

そこで、イエスは彼らの目に触れ、「あなたがたの信仰のとおりになれ」と言われた。すると、彼らの目は開かれた。イエスは厳しく「だれにも知られないように気をつけなさい」と命じられたが、彼らは出て行くと、その地方でイエスのことを言い広めた。

彼らが出て行くと、人々は悪霊に取りつかれたおしを連れて来た。イエスが悪霊を追い出されると、おしはものを言うようになった。群衆は驚いて言った。「このようなことがイスラエルで見られたことはない。」

しかし、ファリサイ派の人々は「彼は悪霊の力で悪霊の頭を追い出しているのだ」と言った。

イエスはすべての町や村を巡り、会堂で教え、御国の福音を宣べ伝え、あらゆる病気や患いを癒された。そして、群衆を見て、羊飼いのいない羊のように弱り果てているのを深く憐れまれ、弟子たちに言われた。「収穫は多いが、働き手が少ない。だから、収穫の主に、収穫のために働き手を送ってくださるように祈りなさい。」

こうして、イエスは人々の苦しみに心を痛め、癒しと赦しの御業を通して、神の国の到来を力強く示されたのである。

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