**詩篇23編に基づく物語:主はわたしの羊飼い**
緑の牧草地が広がるユダの野に、一人の羊飼いが立っていた。彼の名はエリアム。彼は父から受け継いだ羊の群れを導き、日々を過ごしていた。ある夕暮れ、エリアムは岩陰に腰を下ろし、遠くに広がる谷間を見つめながら、心に浮かぶ詩を口ずさんだ。
**「主はわたしの羊飼い。わたしには乏しいことがない。」**
彼は幼い頃から、父がこの詩を歌うのを聞いて育った。主こそが真の羊飼いであり、人々を守り、養ってくださる方だと教えられていた。エリアムは自分の羊たちを見回し、一頭も欠けることなく安らかに草を食む姿に、神の導きを感じた。
**「主はわたしを緑の牧場に伏させ、いこいの水のほとりに伴われる。」**
ある日、激しい暑さが続き、水場が干上がり始めた。群れは喉を渇かせ、弱り始めていた。エリアムは焦りながらも、祈りつつ道を進んだ。すると、岩の間から澄んだ水が湧き出ているのを見つけた。それはまるで主が備えてくださった恵みの泉のようだった。羊たちは喜んで水を飲み、再び力をつけた。
しかし、平和な日々ばかりではなかった。
**「たとい、死の陰の谷を歩むことがあっても、わたしはわざわいを恐れない。あなたがわたしと共におられるから。」**
ある夜、狼の遠吠えが響き渡った。群れは恐怖に震え、混乱した。エリアムも心が揺れたが、父の言葉を思い出した。「主は杖と竿をもって守ってくださる。」彼はしっかりと杖を握り、神に信頼して群れの中心に立った。すると、不思議と恐怖が消え、狼たちは近寄ることなく去っていった。
時が経ち、エリアムは年老いた。彼は今、若い羊飼いたちに語りかけていた。
**「あなたはわたしの敵の前で、わたしの前に宴を設け、わたしの頭に油を注ぎ、わたしの杯をあふれさせてくださる。」**
かつて彼を苦しめた者たちも、今では主の恵みを認め、共に食卓を囲むようになっていた。エリアムは杯を掲げ、静かに言った。
**「まことに、恵みといつくしみとが、わたしの生きているかぎり、わたしを追ってくるであろう。わたしはとこしえに、主の家に住まうであろう。」**
彼の生涯は、詩篇23編そのものだった。主は真実な羊飼いとして、常に共におられ、慰め、導き、勝利を与えてくださった。そして今、エリアムは安らかな心で、永遠の主の御許に帰る時を待ち望んでいた。
(終わり)