**エレミヤの苦悩と神の答え**
ある朝、エレミヤはアナトテの野に立っていた。彼の故郷の村は、緑の丘に囲まれ、オリーブの木々が風に揺れていた。しかし、彼の心は重かった。彼が神の言葉を語れば語るほど、村人たちの目は冷たくなり、陰でささやく声が増えていった。
「主よ、なぜ悪しき者の道が栄えるのでしょうか?」エレミヤは天を仰ぎ、苦渋に満ちた声で叫んだ。「彼らは偽りを語り、欺きながら、安らかに暮らしています。どうしてあなたは彼らを見過ごされるのですか?」
彼の目の前には、不正に富を蓄える者たちの姿があった。隣人の土地を奪い、孤児や寡婦から搾取する者たち。彼らは神を嘲笑いながら、豊かな収穫を楽しんでいた。一方、エレミヤは神の言葉を忠実に伝えるがゆえに、親族からさえ疎まれ、命さえ狙われていた。
「あなたは彼らと共に走っても疲れるのに、どうして馬と競おうとするのか?」
突然、神の声がエレミヤの心に響いた。それは厳しいが、深い慈愛に満ちていた。
「平和な地に住むあなたは、ヨルダンの密林でどうするつもりか?」
神はエレミヤに問いかけるように語り続けた。悪しき者たちが今は栄えているように見えても、彼らはやがて裁かれる。しかし、エレミヤ自身も、さらに厳しい試練に備えなければならないというのだ。
「もしあなたが徒歩で走る者と共に疲れるなら、どうして馬と競うことができようか?」
神の言葉は、エレミヤに覚悟を求めた。これから来る苦難は、今までの比ではない。彼が信頼していた人々さえ、彼を裏切る時が来る。しかし、神は彼を見捨てない。
「わたしはあなたをこの民から引き離し、あなたを彼らに敵対させる。」
神の宣告は厳しかったが、そこには深い計画があった。エレミヤがこれまで以上に神に依存し、真の力を知るためだった。
エレミヤは黙った。風が彼の衣を揺らし、遠くで狼の遠吠えが聞こえた。彼は神の言葉の重みを感じながら、心を決めた。たとえ周囲が敵に囲まれても、神だけが彼の砦であることを信じるのだ。
やがて、神は再び語った。
「もしこの民が悔い改めるなら、わたしは彼らを再びこの地に植え、彼らをあわれむ。しかし、もし彼らが他の神々に従い続けるなら、わたしは彼らを根こそぎ引き抜く。」
エレミヤは目を閉じ、神の正義と憐れみの深さを思った。彼の苦しみは無意味ではなかった。神はすべてを見ておられ、必ず正しい裁きを与えられる。
その日から、エレミヤはさらに力強く預言者としての務めを果たしていった。たとえ周囲が暗く、孤独であっても、彼は神の約束を信じて歩み続けた。
**終わり**