聖書

パウロの難破と神の約束

**使徒行伝第27章:パウロのローマへの航海と難破**

地中海の青い海原に、秋の風が冷たさを増していた。アドラミティオンから出航した船は、イタリアへ向かう囚人たちを乗せ、波間に揺れていた。その中には、ローマ皇帝に上訴したパウロもいた。彼は鎖につながれていたが、その目は信仰に満ち、神の約束を堅く信じていた。

百人隊長ユリアスは、パウロを他の囚人とは別に扱い、ある程度の自由を与えていた。一行はまずシドンに寄港し、パウロはそこで信者のもとを訪れ、必要な物を受け取ることが許された。その後、船はキプロスの南を回り、風の抵抗を避けるように進んだ。しかし、海は次第に荒れ始め、船はクレテ島のサルモネ岬をかすめ、困難な航海を強いられた。

やがて、彼らはクレテ島の良港と呼ばれる「良い港」に到着した。時はすでに「断食の日」(贖罪日)を過ぎており、航海は危険な季節に入っていた。パウロは百人隊長や船長たちに警告した。

「皆さん、この航海は積荷にも船にも、私たちの命にも危険が伴い、大きな損失をもたらすと私は思います。」

しかし、百人隊長は船長と船主の意見を重んじ、港での越冬を望まず、さらに進むことを決めた。南風が穏やかに吹いていたため、彼らはクレテ島に近いペニクス港を目指して出航した。

しかし、間もなく「ユーラクロン」と呼ばれる猛烈な北東の風が吹きつけ、船は激しい嵐に巻き込まれた。船は風に流され、もはや舵を取ることもできず、人々は必死で船を支えた。次の日には積荷を海に投げ捨て、三日目には船の用具さえも放棄した。太陽も星も見えない日が続き、人々の希望は次第に失われていった。

その時、パウロは皆の前に立ち、こう宣言した。

「皆さん、私の言葉に耳を傾けてください。もしも私たちがクレテ島にとどまっていたなら、このような危険や損失を避けられたでしょう。しかし、今、私はあなたがたに勧めます。勇気を出してください。この船は失われますが、私たちの中から一人も命を失う者はありません。昨夜、私の主であり、私が仕える神の御使いが現れ、『パウロよ、恐れるな。あなたは必ず皇帝の前に立ち、神はあなたと共に航海するすべての者の命を守ってくださる』と言われました。ですから、勇気を持ちなさい。神を信じなさい。必ずそのとおりになります。」

十四日目の夜、水夫たちは陸地が近づいていることに気づいた。水深を測ると、ますます浅くなり、やがて船は砂洲に乗り上げ、激しい波で船尾が砕け始めた。兵士たちは囚人たちが泳いで逃げることを恐れ、殺そうとしたが、百人隊長はパウロを助けるためにそれを止め、泳げる者は海に飛び込み、残りは板や船の破片につかまって岸へと向かった。

こうして、神の言葉のとおり、すべての者が無事に陸に上がることができた。彼らはマルタ島に漂着し、島の人々の暖かいもてなしを受けた。パウロはこの航海を通して、神の約束が決して変わらないことを示し、人々の心に信仰を刻みつけたのである。

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