**イザヤ書58章に基づく物語:真の断食と神の祝福**
ユダの地、エルサレムの街は、朝もやに包まれていた。人々は神殿に向かって急いでいた。今日は特別な断食の日である。男たちは荒布をまとい、女たちは頭に灰をかぶり、神の前に悔い改めの姿勢を示していた。しかし、その心はどこか遠く、形式的な儀式にすぎなかった。
神殿の庭では、祭司たちが厳かな声で祈りをささげていた。人々はうつむき、長い祈りを繰り返していたが、その一方で、貧しい者たちは神殿の門の外で飢えに苦しんでいた。彼らはわずかな施しを求めていたが、断食をしている者たちは彼らを無視し、自分の敬虔さに酔っていた。
その時、預言者イザヤが神の言葉を携えて現れた。彼の目には悲しみと怒りが宿っていた。
「主はこう言われる。『あなたがたは、今日、断食をして、うめき、頭を地に伏せる。しかし、それは真の断食だろうか? あなたがたは断食をしながら、自分の欲望のままに働かせ、争いを起こし、拳を振るう。こんな断食が、わたしの耳に届くと思うのか?』」
人々は驚いてイザヤを見つめた。彼らの顔には困惑の色が浮かんだ。
イザヤは続けた。
「主が求める断食はこれではない。悪の束縛を解き、軛の縄をほどき、虐げられた者を自由にし、すべての軛を折ることではないか。また、飢えた者にパンを分け、家のない貧しい者を家に招き、裸の者を見て、着せてやることではないか。そうすれば、あなたの光は暁のように輝き出で、あなたの傷は速やかにいやされる。義があなたの前に行き、主の栄光があなたのしんがりとなる。」
神殿の庭は静まり返った。人々は自分の行いを省みた。彼らは断食をしながら、隣人を顧みず、むしろ自分たちの正しさを誇っていたのだ。
その時、一人の老人が前に進み出た。彼は貧しい者たちのために働いていたが、これまで断食の日に無視され続けてきた者だった。
「預言者よ、私たちは確かに間違っていた。神は私たちの断食ではなく、愛の行いを求めておられるのだ。」
人々は次々と気づき始めた。彼らは神殿を出ると、すぐに行動を起こした。富める者は貧しい者に食物を分け、争っていた者たちは和解し、虐げられていた者たちは解放された。
やがて、エルサレムの街には新しい光が差し込んだ。人々の心に平安が訪れ、神の祝福が街を満たした。主の言葉の通り、彼らの義は彼らの前に行き、神の栄光が彼らを守った。
イザヤは遠くの丘から街を見下ろし、静かにほほえんだ。
「これこそが、主の求める断食なのだ。」
そして、神の約束が成就した。
「あなたがたが、飢えた者に心を配り、苦しむ者の願いを満たすなら、あなたがたの光は、やみの中に輝き上り、あなたがたの暗やみは、真昼のようになる。主は常にあなたがたを導き、渇いたときにもあなたがたを満ち足らせ、あなたがたの骨を強くする。あなたがたは、水の豊かな園のようになり、水の尽きることのない泉のようになる。」
人々は真の断食の意味を知り、神の前に正しく歩む者となった。そして、エルサレムには、神の平和が永遠に続いた。