**終わりの時のしるし**

イエスがオリーブ山ですわっておられると、弟子たちがひそかにみもとに来て言った。「お教えください。これらのことはいつ起こるのでしょうか。また、あなたが再び来られ、世の終わるときには、どんな前兆があるのでしょうか。」

イエスは深い悲しみをたたえた目で彼らを見つめ、遠くに広がるエルサレムの都を見渡しながら、静かに語り始められた。「人に惑わされないように気をつけなさい。多くの者が『わたしこそキリストだ』と言って現れ、大勢の人を欺くでしょう。戦争のうわさや、民族同士の争いを聞いても、慌ててはいけません。こういうことは必ず起こりますが、まだ終わりではありません。国は国に、王国は王国に敵対して立ち上がり、方々に飢饉と地震が起こるでしょう。しかし、これらは産みの苦しみの始まりにすぎないのです。」

夕暮れの光が山肌を赤く染める中、イエスの声はさらに重く響いた。「そのとき、人々はあなたがたを苦しみに引き渡し、殺すでしょう。また、わたしの名のために、すべての民に憎まれるでしょう。すると、多くの人がつまずき、互いに裏切り、憎み合うようになる。また、にせ預言者が現れて、多くの人を惑わすでしょう。不法がはびこれば、多くの人の愛は冷たくなる。しかし、最後まで耐え忍ぶ者は救われます。そして、この御国の福音は、全世界に宣べ伝えられ、すべての民に証しされて、それから終わりが来るのです。」

弟子たちは息をのんだ。空には黒い雲が垂れこめ、まるで世の終わりの暗闇を予感させるようだった。イエスはさらに続けられた。「預言者ダニエルが語った『荒らす憎むべき者』が聖なる所に立つのを見たら──読みとる者は悟りなさい──そのとき、ユダヤにいる者は山へ逃げなさい。屋上にいる者は家の中の物を取りに出てはいけない。畑にいる者は上着を取りに帰ってはいけません。その日、身重の女や乳飲み子を持つ者は不幸です。逃げるのが冬や安息日でないように祈りなさい。その時の苦難は、世の初めから今までにないほどのもので、これからも二度とないでしょう。もしその期間が縮められなければ、救われる者はひとりもいないのです。しかし、選ばれた者のために、その日数は縮められるでしょう。」

風が強く吹き、オリーブの木々がざわめく中、イエスは警告を続けた。「そのとき、『そら、キリストがここにいる』『いや、あそこだ』と言う者がいても、信じてはいけません。にせキリストやにせ預言者が現れ、大きなしるしや不思議な業を行い、できれば選ばれた者をも惑わそうとするからです。見よ、わたしは前もってあなたがたに話しました。だから、人々が『見よ、彼は荒野にいる』と言っても、出かけて行ってはいけません。『見よ、彼は奥の間にいる』と言っても、信じてはいけません。人の子が来るのは、稲妻が東から西へひらめくように、一瞬のうちに現れるからです。」

イエスの目には、世の終わりの光景が浮かんでいるようだった。「死体のあるところには、はげたかが集まるものです。しかし、その日、その時がいつなのか、だれも知りません。天の御使いたちも子も知らず、ただ父だけがご存じです。ノアの日のようになるのです。洪水が来る前、人々は食べたり飲んだり、めとったり嫁いだりしていました。そして、ノアが箱舟に入るその日まで、彼らは気づかなかった。洪水が来て、すべてをさらってしまうまで……人の子が来るのもそのとおりです。そのとき、畑に二人いれば、ひとりは取り上げられ、ひとりは残されるでしょう。ふたりの女が臼をひいていれば、ひとりは取り上げられ、ひとりは残されるのです。」

弟子たちは恐れおののき、互いの顔を見つめた。イエスは彼らに言われた。「だから、目を覚ましていなさい。あなたがたの主がいつ来られるか、わからないからです。家の主人は、泥棒が夜のいつごろ来るかわかっていたら、目を覚まして、自分の家に押し入らせはしなかったでしょう。だから、あなたがたも用意していなさい。思いがけない時に人の子が来るのです。」

こうして、イエスの言葉は弟子たちの心に深く刻まれた。彼らは、終わりの日がどのようなものであれ、主の警告を忘れず、目を覚まして待つことを決意したのである。