**士師記17章に基づく物語:ミカと偶像の神殿**
ユダの山地にあるエフライムの村。夕暮れの光が山々を赤く染め、家々の屋根に柔らかな影を落としていた。その小さな村に、ミカという名の男が住んでいた。彼は裕福な家の出身で、母と共に暮らしていたが、心にはどこか満たされない思いを抱えていた。
ある日、ミカは母から驚くべき告白を聞く。
「わたしの息子よ、実はお前に言わなければならないことがある」母の声は震えていた。「昔、銀千百枚がわたしから盗まれたことがあった。その時、わたしは『呪いあれ』と叫んだが…実はその銀はわたしが隠していたものだったのだ」
ミカは目を見開いた。「母上、それはどういうことですか?」
母は深くうなだれ、「その銀は神聖なものとして取り分けておいたものだった。だが、盗まれたと思い込み、誤って人々を呪ってしまった…」と悔やんだ。そして、ためらいながらも言った。「この銀をお前に渡そう。主のために、彫像と鋳像を作るのだ」
ミカは驚きながらも、母の言葉に従うことにした。銀は彫り師の手に渡され、見事な偶像が作られた。それは銀細工で覆われ、輝く像となった。ミカは自宅の一角に小さな神殿を建て、その偶像を安置した。さらに、彼はエポデ(祭司の祭服)やテラフィム(家庭の神像)も作り、自分の息子たちを祭司として立てた。
「これでわたしの家は祝福されるだろう」ミカは満足そうにつぶやいた。しかし、彼の行動は主の律法から大きく外れていた。モーセの教えでは、偶像を作ることや、主以外のものを礼拝することは固く禁じられていたのだ。
時が経ち、ミカの家の神殿は村の話題となった。ある日、ユダのベツレヘムから、一人の若いレビ人が旅をしてやってきた。彼はエフライムの地をさまよい、働き場所を探していた。
「ここはどこだろう…」疲れた足取りで歩くレビ人に、ミカは声をかけた。
「お前はどこから来たのか?」
「ユダのベツレヘムの者です。レビ人ですが、住む場所を探しています」
ミカの目が輝いた。「それなら、わたしの家に住み、わたしの祭司になってはどうだ? 年に銀十枚と衣服、そして食べ物を与えよう」
レビ人は驚いたが、この申し出に喜んで同意した。ミカは心から満足し、「今やレビ人がわたしの祭司となった。主がきっとわたしを祝福してくださるに違いない」と確信した。
しかし、ミカの思いとは裏腹に、彼の行動は神の目にどのように映っていただろうか。彼は自分勝手な信仰を作り上げ、主の定めを無視していた。偶像を礼拝し、勝手に祭司を立てる——それは真の神への背信行為だった。
この物語は、人がいかに自分の欲望に従って信仰を歪めてしまうかを示している。ミカは「神の祝福」を願いながら、実は自分自身の願望を満たすための宗教を作り上げていた。士師記の時代、人々は「自分たちの目に正しいと見えることを行った」が、その結果は混乱と堕落へと向かっていくのであった。
(士師記17章に基づく物語)