聖書

「ダビデ王の後継者ソロモンの即位」

**王位をめぐる争い:列王記第一1章**

ソロモンの父、ダビデ王は年老い、日に日に弱っていった。エルサレムの王宮では、暖炉の火がゆらめき、王は幾重にも重ねられた毛布に包まれていたが、その体はもはや温まることがなかった。家臣たちは顔を見合わせ、王の終わりが近いことを悟った。

そんな中、王の四男アドニヤが野望を抱き始めた。彼は「自分こそ次の王になる」と宣言し、王位継承の準備を進めた。アドニヤはハギテの子として生まれ、容姿端麗で、父ダビデからも寵愛を受けていた。しかし、神が預言者ナタンを通してソロモンを次の王とすることを告げていたことを、彼は無視したのである。

アドニヤは王の承認を得ず、自らを王と宣言するための儀式を催した。彼は王宮近くの「ゾヘレテの石」の傍らで、羊や牛を屠り、盛大な宴を開いた。王の将軍ヨアブと祭司アビアタルもこれに加担し、アドニヤを支持した。町中に祝いの声が響き、アドニヤの王位継承が既成事実化しようとしていた。

しかし、預言者ナタンとソロモンの母バテシェバはこの動きを察知した。バテシェバはすぐにダビデ王のもとへ急ぎ、王の前にひれ伏して言った。

「王よ、あなたはかつてこの婢(はしため)に、『あなたの子ソロモンが私の後を継ぎ、イスラエルの王座に着く』と誓われました。しかし今、アドニヤが王となり、私たち母子は反逆者として処刑されるかもしれません。」

彼女の言葉が終わらないうちに、預言者ナタンも現れ、王に同じことを告げた。ダビデは長い沈黙の後、ゆっくりと体を起こし、かすれ声で命じた。

「祭司ツァドクと預言者ナタン、そしてベナヤを呼べ。彼らにソロモンをギホンの泉へ連れて行かせ、油を注いでイスラエルの王とするのだ。」

家臣たちは直ちに王の命令を実行した。ソロモンは王の雌騾馬に乗り、エルサレムの東にあるギホンの泉へと向かった。祭司ツァドクは聖なる油を取り出し、ソロモンの頭に注いだ。角笛が鳴り響き、民は「ソロモン王、万歳!」と叫び、歓声が町中に広がった。

一方、アドニヤの宴はまだ続いていた。祝宴の最中、突然、角笛の音と民の叫び声が聞こえた。ヨアブが「これは何の騒ぎだ?」と尋ねると、すぐに王の使者が到着し、ソロモンが王として即位したことを告げた。

アドニヤとその支持者たちは恐怖に震え、宴は一瞬にして混乱に包まれた。彼らは急いで立ち去り、アドニヤは祭壇の角をつかんで命乞いをした。ソロモンは彼に「もし真っ直ぐな者であれば、髪の毛一本も傷つけぬが、悪をなせば死は免れぬ」と告げ、一時的に許した。

こうして、ダビデの約束は守られ、神の御心のままにソロモンが王となった。イスラエルの民は新たな時代を迎え、ダビデは静かに神の御手に自らの魂を委ねる準備を始めたのである。

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