ある寒い冬の夜、パウロはアテネの小さな家の窓辺に立っていた。オリーブの木で作られた机の上には、羊皮紙が広げられ、ランプの灯りが揺らめいている。彼の心はテサロニケに残してきた兄弟たちのことでいっぱいだった。
「あの日々を思い出す」とパウロはつぶやいた。「嵐のような迫害の中でも、彼らは信仰に堅く立っていた」
パウロは目を閉じ、テサロニケの街路を歩いた三日間を思い描いた。シナゴーグで語った言葉、ユダヤ人と敬虔なギリシャ人たちの反応、そしてついに起こった暴動。彼はシラスと共に夜陰にまぎれて町を去らなければならなかったが、その時すでに、多くの魂が主イエスを受け入れていた。
「しかし今、彼らはどうしているだろうか」パウロの心に不安がよぎった。「迫害は続いているのか。信仰が揺らいでいないか」
ランプの灯りが彼の長い影を壁に映し出す。パウロは机に向かい、筆を取った。テモテに手紙を書くことにしたのだ。
「愛する弟子テモテよ、すぐにテサロニケへ向かってほしい。私たちが残してきた兄弟たちを励まし、彼らの信仰が堅く保たれているか確かめてほしい」
テモテは翌日出発した。パウロは彼の無事を祈りながら、毎日不安な日々を過ごした。アテネの街では、エピクロス派やストア派の哲学者たちが議論を戦わせていたが、パウロの心は常にテサロニケにあった。
「あの苦難の中で、私たちは必ず迫害に会うと予告したではないか」パウロは祈りながら天を見上げた。「主よ、どうか彼らを強く保ってください」
数週間後、ついにテモテが帰ってきた。彼の顔には喜びの表情が満ちていた。
「先生、素晴らしい知らせです!」テモテは息せきって報告した。「テサロニケの兄弟たちは信仰と愛に堅く立っています。彼らは私たちのことを深く慕い、私たちが去った後も忠実に歩み続けています」
パウロの目に涙が浮かんだ。彼は感謝の祈りをささげた。
「主は真実なお方だ。私たちの働きが無駄ではなかった」
その夜、パウロは再び机に向かった。新しい羊皮紙を広げ、感謝と喜びに満ちた手紙を書き始めた。
「テサロニケの教会へ、神我们的父と主イエス・キリストより、恵みと平安があなたがたにあるように」
パウロの筆は滑らかに動いた。彼はテサロニケの信徒たちの信仰の堅さを称え、彼らが示した愛に感謝した。迫害の中でも揺るがない彼らの姿が、パウロ自身の励ましとなったことを記した。
「今、私たちは生きていると実感します。あなたがたが主にあって堅く立っているからです」
パウロは夜通し手紙を書き続けた。彼は彼らに、互いの愛を増し加え、主の来臨の希望に生きるように勧めた。また、聖く、責められるところのない者として、主イエスの御前に立つことができるようにと願った。
夜明けが近づき、鶏の鳴き声が聞こえてきた。パウロは書き終えた手紙を巻き、シラスに渡した。
「すぐにテサロニケに届けてほしい。この喜びの知らせを、一刻も早く兄弟たちと分かち合いたい」
シラスが手紙を持って出発するのを見送りながら、パウロは心の中で祈った。
「主イエス・キリストご自身が、私たちの道をあなたがたのところへまっすぐに導いてくださいますように。父なる神が、私たちのあなたがたへの愛と、あなたがたの私たちへの愛を増し加え、主の来臨に備えて私たちの心を強めてくださいますように」
東の空が薄明るくなる中、パウロは深い平安を感じていた。迫害と困難の中でも、神の言葉は確実に実を結んでいた。テサロニケの信徒たちの信仰は、まさに生ける証しであった。




