聖書

ダビデとアンモンの戦い

ダビデ王がエルサレムの宮殿で政務を執っていると、東の国境から早馬が到着した。伝令は息も切れ切れに報告する。「アンモンの王ナハシュが逝去され、その子ハヌンが新王に即位されました」

ダビデは深く息を吐いた。老ナハシュとは若き逃亡時代に奇妙な縁で結ばれていた。かつてイスラエルの王サウルに追われていた時、この異国の王が密かに食料と武器を提供してくれたことがある。それはダビデが将来を約束されながらも苦難にある者への、静かなる憐れみだった。

「哀悼の使者を遣わそう」ダビデは側近たちに命じた。「ナハシュ王が我が父ダビデに示した慈愛を忘れてはならない。彼の子ハヌンに慰めの言葉を伝えよ」

選ばれた使者団はヨルダン川を渡り、アンモンの首都ラバへと向かった。砂漠の風が彼らの外套を翻す。先頭を行く長老たちの顔には、異国ながらも故人を悼む真心が浮かんでいた。

しかしラバの宮殿では、若きハヌン王が家臣たちに囲まれていた。老練な将軍たちがささやく。「イスラエルからの使者だと? 父王がダビデに親切にしたのは過去の話。今やダビデは全イスラエルを支配する強国だ。哀悼などと称して、実はこの国を偵察するために来たに違いない」

ハヌンの目に疑念が宿った。父の死で不安定になった王権を守るため、彼は過激な判断を下す。「使者たちを捕らえよ。恥をかかせて追い返せ」

アンモンの兵士たちは使者団を宮廷の広場に引きずり出した。外套をはぎ取り、下半身を露出させた。さらに屈辱的に、彼らのあごひげを片側だけ剃り落とした。ひげはユダヤ人男性の尊厳の象徴である。この仕打ちは単なる侮辱を超え、国際的な挑発行為だった。

ヨルダン川を渡ってエリコにたどり着いた使者たちは、その姿にダビデも言葉を失った。ひげを剃られた側の頬は風にさらされ、衣服を奪われた彼らは外套で身を包むしかない。彼らの目には屈辱と怒りが燃えていた。

「エリコに留まれ」ダビデは静かに言った。「ひげが伸びるまでここで休め。その後エルサレムに帰還せよ」

しかしこの侮辱は戦争を意味していた。アンモンもそれを覚悟で、すぐに同盟国に使者を走らせた。北のツバ王国からは二万の歩兵が、さらに千タラントの銀でアラム・ナハライムとアラム・マアカから戦車一万二千両と騎兵が集結し始めた。

ダビデは勇将ヨアブに全軍を託した。ヨアブは弟アビシャイと共に、精鋭部隊を率いてヨルダン渓谷へ急行した。彼らが到着した時、アンモン軍は城門前に布陣し、同盟軍は背後から挟み撃ちにする態勢を整えていた。

ヨアブは戦場を見渡し、作戦を練る。彼は部隊を二手に分け、弟アビシャイにはアンモン軍を、自分にはアラム軍を担当させた。「もし私が苦しんでも、お前が援軍に来るな。逆も同じだ。それぞれの戦線に集中せよ」と兄弟は固い約束を交わした。

戦いの火蓋が切られた。ヨアブ率いる本隊がアラムの戦車隊に突撃する。馬の嘶き、戦車の車輪の轟音、槍と盾がぶつかり合う金属音が渓谷に響き渡った。ヨアブ自ら先頭に立って戦い、イスラエル兵たちは獅子奮迅の働きを見せる。

一方アビシャイ隊もアンモン軍を城門近くまで押し戻した。アンモン兵は高地の利を生かして矢を射かけ、油を煮えたぎらせて城壁から注ぎ落とすが、イスラエルの盾の壁はそれをはじき返した。

アラム軍は歴戦の勇士たちだったが、この日ばかりは神の御手がイスラエルを守っていた。彼らは戦車を捨てて逃げ出し、指揮官ショパクもヨアブの槍にかかった。これを見てアンモン軍も城内へ敗走し、城門を閉ざした。

敗戦の報せを受けたアラムのハダデゼル王は更なる援軍を送り込んだ。ユーフラテス川の向こうから新たな将軍ショファクが大軍を率いて到着する。

ダビデはこれを聞き、自ら全イスラエル軍を率いて出陣した。ヘルモン山のふもとで両軍は激突する。ダビデの指揮の下、イスラエル軍は七千の戦車兵を打ち取り、四万の歩兵を討ち取った。ショファク将軍もこの戦いで命を落とした。

アラムの諸王はついに和平を乞うた。二度とイスラエルに敵対しないことを誓い、従属国の地位を受け入れた。一方、ラバに籠城するアンモン軍は、春の戦いまで息をつくことになるのだった。

戦いが終わり、ダビデは幕舎で祈りを捧げた。彼が願ったのは単なる勝利ではなかった。かつてナハシュ王が示した憐れみを彼は忘れず、むしろその子ハヌンが真実を見失わぬことを願っていた。しかし王国を守るためには、時に剣を取らねばならない現実。王冠の重みを感じながら、ダビデは遠くラバの城壁を見つめた。次の春までには、全てが決着するだろう。

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