南ユダのテコアの郊外、いちじく桑を育てながら羊の群れを見守る日々が、ある時を境に変わった。風の匂いが違ってきたのだ。乾いた砂埃と牧草の香りの中に、鉄の気配と遠くの叫びが混じるようになった。アモスはその変化を、指先で土をこねる感触より確かに知った。彼は預言者と呼ばれる者ではなかった。ただの牧者、農夫にすぎない。それでも、主の声は突然、彼の胸の内に沸き起こり、喉元まで迫ってきて息苦しいほどだった。
その日も、西からの風が丘を越えてきた。風はギレアドの高原を抜け、ヨルダン川の水気をわずかに運びながら、しかしどうしようもない焦げ臭さをまとっていた。アモスは岩陰に腰を下ろし、皮袋の水を一口含んだ。目を閉じると、視界の裏側に炎の色が広がった。それは幻というには余りに生々しく、土地の記憶そのものが疼いているようだった。
まず、ダマスコのことが頭に浮かんだ。北の町。交易路が交わり、富が渦巻くあの場所。しかし主は言われた。彼らは鉄の脱穀機のようにギレアドを踏みにじった、と。農具を武器に変え、畑を血で染めた。その響きが、アモスの鼓動と重なった。彼はかつて、ギレアドから来た羊商人の話を聞いたことがある。夜通し燃える村の火、逃げ惑う者を追う戦車の轍の音。その一つ一つが、今、風に乗って届いている気がした。「わたしはハザエルの家に火を送る」。その言葉が唇をついた時、彼自身が驚いた。声は低く、しかし岩を穿つ水のように確かだった。「ベネ・ハダデの宮殿の掛け金を砕き、ダマスコの平原の住民を断ち、アベンの王権を滅ぼす」。地名が次々と溢れ出る。彼はそれらの場所に行ったことさえない。それでも、砕ける門の木屑の感触、逃げる人々の足音の慌ただしさが、手に取るように分かった。
風向きが変わり、今度は西から、海の塩気を含んだ風が吹いてきた。ガザだ。ペリシテの町々。彼らはそこの住民をそっくり捕らえ、エドムに売り渡した。奴隷商人の船が帆を揚げる港のざわめき、鎖の音。主の怒りは静かだった。「わたしはガザの城壁に火を送る。その宮殿を焼き尽くす」。アモスは目を開けた。眼前には穏やかな丘陵が広がっているだけだ。しかし彼の耳には、石積みが崩れ落ちる轟音が響いていた。アシュドド、アシュケロン、エクロン…残る首長たちも、同じ運命をたどる。その宣告は、ためらう余地がない。ひとつひとつが、過去の罪の重さに応じて落とされるのだ。
すると今度は、北西のほうから、杉の香りとともに別の情景が押し寄せた。ツロ。巧みな船乗りと商人の町。彼らもまた、兄弟の契約を顧みず、エドムに俘われの民を売り渡した。契約とは、かつての友好の絆なのか、それとも神の前での盟約なのか。アモスには細かい事情は分からない。ただ、主が「覚えていられる」その事実が、すべてを物語っていた。「わたしはツロの城壁に火を送る。その宮殿を焼き尽くす」。同じ言葉が繰り返される。裁きに隔たりのないことが、この繰り返しから伝わってきた。海辺の堅固な要塞も、積まれた富も、炎に包まれる様が、ありありと見える。
息が苦しくなった。アモスは地面に手を付き、深く息を吸い込んだ。土の匂いがする。しかし、その土さえもが訴えているようだった。東の方、死海の向こうの高地から、新しい声が聞こえてくる。エドムだ。彼らは兄弟の情けを知らず、剣を執って追い立て、永く怒りを保ち、憤りを絶やすことがなかった。兄弟とは、イスラエル、ヤコブの子らのことだ。血の記憶が、砂漠を越えて届く。主の声は冷たい。「わたしはテマンに火を送り、ボツラの宮殿を焼き尽くす」。荒野の砦の炎は、どれほど孤独で熱いだろう。アモスはふと、旅の途中で出会ったエドムの商人の、硬く閉ざした目を思い出した。あの恨みの根は、こんなに深かったのか。
そして、東の風が吹いてきた。荒い風だ。アンモン人たち。彼らはギレアドで妊娠の裂かれんとする女を裂き、自分たちの境を広げようとした。その残酷さが、風に混じって胃を攣らせる。主の言葉は鋭い。「ラバの城壁に火を送り、その宮殿を焼き尽くす。戦いの日の叫びと、嵐の日の暴風の中に」。ラバの町の喧騒が、突然の沈黙に変わる瞬間が目に浮かぶ。王と首長たちは捕らえられて行く。その光景には、哀れみよりも、むしろ一種の厳かな納得があった。彼らが撒いた種は、必ず刈り取られるのだ。
最後に、南からの風。モアブ。彼らはエドムの王の骨を焼き、灰にした。死に対する侮辱。それは、生者に対する以上に深い罪悪をはらんでいる。主の宣告は続く。「モアブに火を送り、ケリオテの宮殿を焼き尽くす。騒ぎとラッパの音の中に」。死の静寂を破った者は、生の騒音の中に滅びる。アモスはもはや、幻と現実の境を見失っていた。目の前の羊の群れが、遠くの民の慌ただげな逃亡の群れと重なって見える。
夕日が丘を赤く染め始めた。アモスはゆっくりと立ち上がった。足元には、いつものように小石や草の穂が転がっている。しかし、すべてが変わった。彼はもう、ただの牧者ではいられない。七つの国々への宣告が、彼の内に満ちていた。それは単なる破壊の預言ではなかった。どこまでも正確で、逃れようのない、義の秤にかけた裁きの言葉。繰り返される「火」と「城壁」と「宮殿」。その単調さこそが、罪の結果の必然性を物語っている。
彼は羊の群れの方に歩き出した。背中に、残りの国々――ユダと、イスラエルへの言葉が重くのしかかっているのを感じた。しかし、それはまた別の風の日のことだ。今は、この沈黙の後でさえ騒がしい黄昏を、ただ生きなければならない。主の声は去ったが、その余韻は、彼の生涯から二度と消えることはない。彼は羊を数えながら、ふと、ダマスコからモアブまで、すべての炎がやがて一つになる日があるかもしれない、と思った。そして、その日に備えて、彼はこの丘で、いちじく桑の世話を続けるのだろう。主の言葉は、彼を通して、土に根ざした者として、土の匂いを帯びて語られなければならない。風は止み、最初の星が東の空に瞬いた。




