荒野の風は、乾いた土の匂いを運び、岩肌を撫でてゆく。遠くにヘルモン山の雪頂が鈍い光を湛え、一日の終わりを告げていた。私たちは、バシャンの平野に陣を敷いていた。目の前に広がるのは、王オグの領土──彼の寝台が鉄でできていた、と噂されるほどの巨人の国の残骸だ。
あの日、主が言われた。「恐れるな。わたしは彼を、その民とその地とを、あなたの手に渡す。」声は、胸の奥で低く響いた。朝もやが晴れる前に、私たちは進軍した。記憶にあるのは、足下で軋む小石の音、革の鎧が擦れる鈍い響き、そして息を殺した兵士たちの顔だ。オグの軍勢は、エデレイで待ち構えていた。彼らの盾は森のように立ち並び、槍先が薄明かりにきらめく。巨人の血を引く者たちは、確かに我々より背が高く、屈強だった。しかし、主が共におられる時、高さも数も意味をなさない。
戦いは、激しかった。いや、激しいというより、それは一種の「流れ」だった。主の御手が前に出て、敵の陣形を乱し、彼らの勇気を霧散させてゆく。私の腕が槍を振るう。それは私の力というより、私を通して働かれる方の意志の現れのように感じられた。オグの兵は倒れ、逃げ惑い、やがて全滅した。その日、私たちは六十の城壁に囲まれた町々を一つ残らず制圧し、男も女も子どもも、生き残らせなかった。家畜と町々の戦利品は、私たちのものとなった。
戦いが終わり、静寂が訪れたとき、私は荒れ果てた町々を見渡した。アルノン川の谷からギルアデの山地、そしてバシャンの全土に至るまで──かつてレファイムの生きていた地だ。オグの都、エデレイには、鉄の寝台が残されていた。九キュビトの長さ、四キュビトの幅。今もそれはラバの町にあり、人々が目にする証しとなっている。巨人の王の遺物は、主が成し遂げられたことの、ただの名残でしかない。
土地を分配したのは、その後だ。ルベンの子孫、ガドの子孫、そしてマナセの半部族に、ヨルダン川のこちら側の地を与えた。私は彼らに言った。「あなたがたの妻や子ども、家畜は、与えられた町にとどまってもよい。だが、戦士たちは武装し、兄弟たちの先頭に立ってヨルダン川を渡り、主が与えようとしておられる残りの地で戦わねばならない。主があなたがたの兄弟に安住を与えられるまで、彼らの傍らに立て。」
彼らは答えた。「あなたが命じられる通りにします。」その顔には、約束の地を目前にした緊張と、確信が入り交じっていた。私はヨシュアを呼び、皆の前で彼に言い聞かせた。「あなたは、このすべてを見た。主がこれらの国々の王たちになさったことを。主ご自身が、あなたのためにも戦われる。恐れてはならない。」
…しかし、私自身には別の宣告が下っていた。あのメリバの水の件で、主は私とアロンに怒り、約束の地に入ることをお許しにならなかった。私は主に懇願した。「主よ。あなたはその偉大さと御力とを、しもべに示し始められました。天においても、地においても、あなたのようなわざを行う神が、ほかにありましょうか。どうか、私にヨルダンを渡らせ、あの良い地を見させてください。」
主は言われた。「そのことで、もうわたしに言うな。ピスガの頂に登り、目を上げて西、北、南、東を見渡せ。あなたの目で見るがよい。しかし、あなたはこのヨルダンを渡ることはできない。」その御声には、抗いようのない決然とした優しさがあった。主は続けられた。「ヨシュアを励まし、強くせよ。彼がこの民を導き、あなたの見る地を継がせるのだから。」
私は頷いた。悔しさのような、諦めのような、それでいて深い平静が胸を満たした。主の判断は正しい。私はここまで導かれたが、新しい世代に未来を託す時なのだ。ヨシュアの肩に手を置くと、彼の目に一瞬の不安が走ったが、すぐに静かな決意に変わった。
今、私はこのピスガの頂に立っている。眼前にはヨルダンの谷が広がり、向こう側にはエリコの町の影がかすんでいる。夕焼けが地を黄金に染め、遠くカデシまでの荒野を赤く照らす。主がアブラハム、イサク、ヤコブに誓われた地を、私はこの目で見ている。入ることは叶わない。だが、この光景を見せてくださったこと自体が、一つの約束だ。主の道は完全で、主の口の言葉は真実である。荒れ野の四十年、導き、懲らしめ、養われたすべての日々が、この一瞬に凝縮されている。
風が強くなり、外套の裾を翻す。もう下りなければならない。民は待っている。ヨシュアは、新しい指導者としての重責を胸に、静かに息を吸っているだろう。私は、最後にもう一度、約束の地を見つめる。そして振り返らずに歩き出す。主が共におられる限り、この旅の終わりは、誰にとっても始まりでしかないのだから。




