その日、ベツレヘムの丘には、いつもと違う緊張が漂っていた。朝もやがようやく昇る陽に溶け始める頃、一人の老いた旅人が、ゆっくりと町の門へと歩みを寄せた。その外套は長い旅路の塵をまとっている。彼の名はサムエル。イスラエルのすべての部族がその名を知る預言者であり、裁き人であった。彼の心は重かった。主が彼に命じられたことは、痛みを伴う任務だった。今も目に焼き付いている、サウル王の狂おしいほどの猜疑の眼差し。かつて油を注いだ王を、主が退けられた。そのことをサムエルは嘆き、恐れてもいた。ベツレヘムへ行け、と主は言われた。わたしはエッサイの子らの中に、王となる者を備えている、と。
町の長老たちは震えながら彼を出迎えた。預言者が突然訪れるのは、常に吉報とは限らない。「平穏のためにおいでになったのですか?」彼らの声には不安がにじんだ。サムエルは胸の内を隠し、儀式のために来た、とだけ告げた。彼らを招き、エッサイとその息子たちを清めさせた。彼自身、この先どうなるかは知らなかった。主の指示を待つしかない。
エッサイの家族が到着した。息子たちは、いかにもベニヤミンやユダの勇士らしい、たくましい若者たちだった。長男のエリアブがまず前に出た。背が高く、姿形が優れている。サムエルの心は一瞬、動いた。これこそ主が選ばれる者に違いない。しかし、内側から響く声は、はっきりと告げた。
「彼の容姿や背の高さに目を向けるな。わたしは彼を退ける。人が見るものと、わたしが見るものは違う。人は外見を見るが、主は心を見る。」
サムエルは静かに息を吐いた。ならば、次だと、エリアブに油を注ぐことはしなかった。次男のアビナダブが呼ばれ、前に出た。サムエルは彼を見つめたが、心に何の響きもなかった。三男のシャンマも同様だ。エッサイは七人の息子を次々とサムエルの前に連れて来た。預言者は一人一人を注意深く見つめたが、その度に、内なる確信が「違う」とささやく。不思議な、もどかしい時間が流れた。
最後の七人目の若者も、「主が選ばれたのはこの者ではない」と告げられた時、沈黙が訪れた。サムエルは戸惑いを隠せず、エッサイに尋ねた。
「あなたの息子は、これで全部なのですか?」
エッサイは一瞬、ためらった。それは、羊の群れを思い出した時の表情だった。「まだ末の子がおります。一番小さい者です。今は野原で羊の番をしています。」その言葉に、何かがサムエルの胸を軽く打った。野原。羊。一番小さい者。
「人をやって、彼を連れて来させなさい。彼がここに来るまで、わたしたちは席に着かない。」
ダビデが連れて来られた時、彼は野原の風と太陽の匂いをまとっていた。頬は風に焼け、目は澄んでいて、羊の毛くずが衣服に少しついていた。兄たちのように威厳もなければ、堂々とした体格もない。しかし、サムエルがその少年を見た瞬間、彼の内側で、長い間鳴り響いていた小さな鈴が、一つの確かな音を立てて静かに止まった。それが、主の声であった。
「さあ、立ちなさい。これがその人だ。」
油の器が取り出された。それはごく小さな儀式だったかもしれない。華やかな宣言も、民の喝采もない。ただ、年老いた預言者が、野から駆けつけた一人の羊飼いの少年の額に、粘り気のある清いオリーブ油を注いだ。その油が少年の額から頬にかけて伝うのを見て、サムエルは初めて、その日一日を包んでいた重い悲しみと恐れが、ふっと軽くなるのを感じた。この時、ダビデの上に主の霊が激しく下った。一方、遠くギブアの王宮では、サウル王が突然、身をよじるような不安と苦悶に襲われた。主の霊が彼から離れ、代わって悪霊が彼をさいなみ始めたのである。
時は下り、王の家臣たちが言った。「神から来る悪霊が王を苦しめています。どうか、巧みに琴を弾く者を探させてください。その者が琴を弾く時、主の御手があなたの上にあって、あなたは良くなられるでしょう。」サウルは、そうするがよい、と命じた。
そのうちの一人が進み出て言った。「実は、ベツレヘムにエッサイという者を見ております。その子の一人は琴を弾くのに巧みで、勇気もあり、戦士にも適し、物分かりが良く、姿形も美しく、かつ主が彼と共におられます。」
こうして、再びダビデの名が王宮に届けられた。サウルは使者をエッサイのもとに送り、「羊を飼っているあなたの子ダビデを、わたしのもとに寄越してもらいたい」と伝えさせた。
ダビデが再び野から呼び戻された時、彼の手には、乾いたパンと皮袋に入れた葡萄酒と、一頭の子山羊があった。父エッサイからの贈り物である。彼はそれらを王に献上した。そして、サウルの前に立った。
王は、この目に澄んだ、無邪気さと確かな意志が混ざり合ったような少年を見て、何故か心が和らぐのを感じた。ダビデが琴を手に取り、弦を軽くかき鳴らすと、部屋の中に、野原を吹き渡る風のような、清らかな音色が広がった。それは技巧を誇るようなものではなかった。ただ、羊の群れを見守る長い夜や、獅子や熊から身を守った時の心のざわめき、そして静かな祈りが、その指先から滲み出てくるようだった。
悪霊にさいなまれていたサウルは、その音を聞くたびに、胸の内に渦巻く暗い熱が少しずつ冷め、安らぎを得た。彼はこの少年をひどく気に入り、自分の武器を持つ者とした。そして、折に触れて、「ダビデをわたしのもとに連れて来い。彼はわたしの心に適う」と命じるようになった。
こうして、羊飼いの少年は、油を注がれ、王の側近として仕える者となった。しかし、ベツレヘムの丘では、彼がかつて守っていた羊の群れが、新しい番人の下で草を食み、夕暮れには囲いに帰っていく。ダビデ自身でさえ、この変化が何を意味するのか、すべてを理解してはいなかった。ただ、野原で主を仰ぎ見ていたあの日々と、今、琴の弦に触れる指先とに、同じ一本の、見えない糸が通っていることを、ぼんやりと感じ取るだけだった。王宮の床は石畳で冷たく、野原の土のように柔らかくはない。しかし、どこにいようと、主が共におられることだけは、確かなことのように思えた。彼はまだ、その油の重みを、完全には知らない。




