聖書

渇きと奇跡の谷

砂漠の風は、記憶を剥ぎ取るようにして吹き抜ける。イスラエルの王ヨラムは、サマリアの宮殿の陰翳よりも、この灼熱の空虚を選んだ。父アハブの跡を継いでから、彼は常に重い影と戦っていた。隣国モアブの年ごとの貢ぎ物――子羊十万頭、雄羊十万頭の羊毛が、ある年を境にぷっつりと途絶えた。裏切りは、砂漠の石のように硬く、王の尊厳を鋭く傷つけた。

ヨラムは動いた。全イスラエルを召集する使者を走らせると、同時に、ユダの王ヨシャファテのもとへ急報を送った。「モアブが私に背きました。あなたは私と共にモアブと戦いに行きませんか」。文面は簡素だったが、その背後には、父の時代から続く複雑な同盟と確執がにじんでいた。意外にも、ヨシャファテからの返答は早かった。「私は上がります。あなたと一体、私の民はあなたの民と一体、私の馬はあなたの馬と一体です」。その言葉には、かつてアハブと共に戦ったラモト・ギレアドでの敗戦の記憶が、微かな翳のように付きまとっていた。

さらに、エドムの王も同盟に加わった。三つの王国の軍勢は、ヨシャパテの提案に従い、迂回するかのようにユダの南部、エドムの荒れ野を七日かけて巡る遠大な行軍を開始した。道中、水が尽き始めたのは、ちょうどエドムの砂漠の真っただ中であった。人だけでなく、荷車を引く牛、兵士を乗せた馬の喉も、渇きで焼けついていた。

「水がない」。その噂は、隊列を伝い、やがて確信へと変わり、不安が波のように広がった。ヨラムは顔を曇らせた。「ああ、主はこの三人の王を呼び集めて、モアブの手に渡そうとしておられるのか」。その嘆きは、父アハブの家にまとわりついたバアル礼拝の影響を、まだ拭いきれていない彼の信仰の脆弱さを露わにしていた。

それに対して、ヨシャファテは違う考えを持っていた。「ここに主の預言者はおられませんか。彼を通して主にお伺いを立てようではないか」。イスラエルの従者の中から、一人の名が挙がった。「エリシャ・シャファテの子がここにおられます。かつてエリヤの手に水を注いだ者です」。三人の王は、しずしずとその預言者を訪ねた。

エリシャは、彼らが近づいてくるのを見て、イスラエルの王ヨラムに向かって言った。「わたしはあなたと何の関係がありますか。あなたの父上の預言者たち、あなたの母上の預言者たちのもとに行きなさい」。その言葉は鋭く、ヨラムの心の偶像にまっすぐに切り込むものだった。王は沈黙した。ヨシャファテが静かに口を開いた。「主の言葉があるはずです」。その敬虔な姿勢が、場の空気を変えた。

エリシャは、ヨシャファテの顔を一瞥すると、少し語気を和らげた。「ユダの王の顔があるので、あなたを顧みる。でなければ、あなたを見ようとも、あなたに注目しようともしなかった」。そして彼は、楽師を呼ぶように命じた。楽師が竪琴を弾き始めると、主の御手がエリシャの上に下り、彼は預言した。

「主はこう言われる。『この谷に多くの水ためを掘れ。あなたたちは風も、雨も見ないのに、この谷に水が満ち、あなたたちも、あなたたちの家畜も、荷畜も飲むことができる』。これは主の目には些細なことである。主はさらにモアブをあなたたちの手に渡される。あなたたちはすべての防備の町、すべての選びの町を打ち、すべての良い木を切り倒し、すべての水の泉をふさぎ、すべての良い畑を石で荒らすだろう」。

言葉は、具体的でありながら、どこか超越していた。王たちは、その指示に従い、谷に多くの穴を掘らせた。作業は、渇きで弱った兵士たちにとって過酷な労働だった。鋤が砂利混じりの土を耕す音だけが、乾いた空気に響く。

翌朝、供え物をささげる時刻になった。すると、エドムの方から水が流れて来て、その谷は水で満たされた。それは雨でもなく、嵐でもなかった。遠くの山地に降った雨水が、地の底を伝い、あるいは天の配剤そのもので、掘られた穴をひとつひとつ満たしていった。水は澄んでいて、砂漠の朝日をきらきらと反射した。兵士や家畜が、我先にとその水辺に群がる様は、ある種の祝祭のようでもあった。

その時、モアブの国境の守り兵たちが、朝もやの中、水面に輝く陽光を目にした。水は赤く染まって見えた。夜明けの光の加減か、あるいは砂漠の粘土が溶け出したのか。彼らは即座に結論に飛びついた。「あれは血だ。あの王たちがきっと互いに刃を交え、殺し合ったに違いない。さあ、モアブよ、分捕りに行こう!」

モアブ軍は、油断した様子でイスラエルの陣営に突進して来た。しかし、待ち構えていたのは、整然とした戦列と鋭い刃だった。奇襲を仕掛けたつもりが、逆に不意を突かれたのはモアブの方だった。戦いはたちまち押し問答となり、やがてイスラエルとその同盟軍の圧倒的な推進力へと変わった。彼らはモアブの地に攻め入り、町々を打ち破り、石を投げ込んで肥沃な畑を荒らし、泉を塞ぎ、木々を切り倒していった。エリシャの言葉が、一つ一つ、厳しい現実として地に刻まれていくようだった。

最後の砦、キル・ハレセトに追い詰められたモアブの王メシャは、絶望的な行動に出た。城壁の上で、後継ぎとなるはずの長子を、生け贄としてささげ、城壁の上で焼いた。それは、彼らが信じる神ケモシュへの、最大の哀願であった。その光景は、イスラエルと同盟軍に、言い知れぬほどの怒りと恐れを引き起こした。「彼らに呪いがある」。そう囁く声が陣営に広がり、やがて撤退の決断へとつながった。王たちは兵をまとめ、それぞれの国へと帰って行った。戦いは勝利で終わったが、砂漠の風のように、何か重く、澱んだものを残していた。

ヨラムはサマリアへの帰路、なおも渇きを覚えていた。谷に満ちたあの奇跡の水の味は、もう思い出せない。彼の心には、エリシャの最初の鋭い言葉と、モアブの王が城壁でした最後の行為とが、渦を巻いていた。主は確かに勝利を与えてくださった。しかし、その道筋は、王の思いをはるかに超え、彼を無力な巡礼者へと引き戻すかのようだった。砂漠の太陽は、彼の背中に、父の影よりも長い、新しい影を落としていた。

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