聖書

砕かれた預言の壺

エルサレムの朝は、灰陶器のような空から始まった。夜の冷気が石畳にへばりつき、家々の屋根には薄らと露が光っている。エレミヤは、うつろな眠りから覚めたとき、喉の奥に粘土の苦い味を感じた。夢の残りかす──壺が砕ける鈍い音、子供たちの声ではない叫び。彼は粗末な床から起き上がり、窓の隙間から差す細い光を眺めた。今日という日が、重い布を被せられて運ばれてくるような予感がした。

工房へ向かう道すがら、町はいつもの喧噪に包まれていた。野菜を売る女の甲高い声、ロバの蹄の音、鍛冶屋の槌の響き。しかし預言者の耳には、それらすべての下に、かすかな亀裂の音が聞こえるようだった。壁の漆喰にひびが入り、井戸の水が濁り、人々の笑い声の底にぽつりと空虚な間ができる。彼はそういう兆候を、長いこと読み取ってきた。

陶器師の作業場は、町の外れの坂の途中にあった。窯の熱気と湿った粘土の匂いが、一帯にたちこめている。中では年の頃六十ほどの職人が、ろくろの前で背を丸めていた。土の塊が彼の掌の中で回り、ゆっくりと形を成し、器としての意思を持ち始める。エレミヤはしばらく無言でそれを見つめた。神の御手も、かくのごとし、と心の中で繰り返した。しかし今日、彼が求めているのは完成した器ではない。

「壺がひとつほしい」
声をかけると、陶器師はゆっくりと顔を上げた。火の粉で汚れた額に深い皺が刻まれている。
「安物でよければ、あそこに幾つかある」
彼の指さす隅には、形は整っているが釉薬が斑な壺が並んでいた。日常使いの雑器だ。エレミヤは首を振った。
「いや、陶器師の手で選ばれ、焼かれ、まだ何も入れられていない壺だ。値は問わぬ」

職人は預言者の顔をじっと見た。彼の目は、この町に住まう者が皆そうであるように、どこか諦めに似た影を宿していた。しかしその奥に、古い記憶の灯りが一瞬ゆらめいたように思えた。彼はうなずき、奥の棚からひとつの壺を抱えてきた。それは素焼きのままの、どこか無防備な白さを保つ器だった。形は端正だが、装飾はない。ただ、土そのものの質感が、窯の火を通して温かく輝いている。
「これは、良い土から作った。ヒンノムの谷の東、畑の隅から掘り出した粘土だ」
陶器師がそう呟くように言うと、エレミヤの胸に鋭い痛みが走った。ヒンノムの谷。その名を聞くだけで、彼は背筋が冷たくなるのを感じた。

壺を抱えて町を下りる道で、彼は幾人かの長老たち、祭司たちに行き会った。彼らは皆、彼が壺を抱えているのを見て、奇妙な顔をした。誰も彼に尋ねはしなかった。エレミヤが風変わりな振る舞いをすることは、もはや周知のことだった。しかし彼らの目には、好奇と軽蔑、そしてわずかな不安が入り混じっていた。彼らは皆、神殿での務めを終え、あるいは政治の駆け引きから戻る途中らしい。着物の縁は清潔に保たれ、歩き方には威厳があった。だが預言者の目には、彼らの足元にまとわりつく黒い煙のようなものが見えた。バアルへの香り、異教の儀式の匂いだ。

ヒンノムの谷は、エルサレムの南の城壁の外に広がる深い窪みだった。かつてはただの谷だったが、今では人々が「トフェト」と呼ぶ場所へと変わり果てている。エレミヤが谷の縁に立つと、冷たい風が渦を巻いて上がってきた。風の中には、消えきらない薪の臭いと、何か甘ったるく腐ったような香りが混じっている。谷底では、いつものように細い煙が数本立ち上っていた。火は絶やさず、そこに捧げられるものも絶えることがない。

彼は振り返った。長老と祭司たちの幾人かが、なぜか彼について来ていた。距離を置きながら、しかし確かに後を追ってきている。彼らは彼の行動を監視しているのか、あるいはただの偶然か。エレミヤは深く息を吸い、谷に向かって声を張り上げた。その声は、乾いた岩肌にぶつかって、奇妙な反響を生んだ。

「聞け、ユダの王たち、エルサレムの住民よ。万軍の主はこう言われる。見よ、わたしはこの場所に災いをもたらす。これに聞くすべての者の耳が鳴り響くほどの災いを」

谷の風が、突然強くなったように思えた。持っていた素焼きの壺が、重たく冷たくなっていく。彼はその壺を掲げて見せた。

「彼らはこの場所を捨てた。ここをトフェトと呼び、ヒンノムの谷の子らを火で焼いた。わたしが命じたのでも、心に浮かんだのでもない。それゆえ、見よ、この谷はもはやトフェトともヒンノムの谷の子らを焼く場所とも呼ばれず、『殺戮の谷』と呼ばれる日が来る」

彼の言葉に、後ろで聞いていた者たちの間にざわめきが起こった。しかし誰も彼を止めようとはしなかった。むしろ、そのざわめきの中に、ある種の冷笑が含まれているようにエレミヤには聞こえた。お前の脅しなど、もう何度聞いたか、と。彼らはそう思っているに違いない。

預言者は再び谷に向き直った。彼の声は次第に熱を帯び、痛みに歪み始めた。
「わたしはこの町の計略を、敵の前で空しくする。彼らは剣に倒れ、その死体を空の鳥と地の獣の餌とする。わたしはこの町を、見るすべての国々の民の前に、恐怖と嘲りの的とする」

言葉が彼自身の体を震わせた。壺から、微かに湿った土の匂いがした。陶器師が言った。この土はヒンノムの谷の近くから掘り出した、と。この器は、この谷の罪から生まれ、今、この谷の裁きを告げるために帰ってきたのだ。

「人々が、飢えの極みに達し、隣人や友、兄弟を食らうようになる。恐ろしいことだ、とわたしは言おう」

最後の言葉を吐き出すと、エレミヤは両手で壺を高く掲げた。そして、全身の力を込めて、それを谷の縁の岩にたたきつけた。

砕ける音は、彼が想像していたよりも鈍く、また鋭かった。壺は粉々に散り、無数の素焼きの破片が岩肌を転がり、谷の斜面を落下していった。いくつかはまだ形を留めていたが、かつての器としての用をなすことは二度とない。ただの土の塊に戻るのだ。

深い沈黙が流れた。風の音だけが、谷をうなりながら抜けていく。後ろにいた者たちも、息をひそめている。エレミヤは砕かれた破片を見下ろし、声を絞り出した。それは嗄れ、震えていた。

「万軍の主はこう言われる。わたしはこの民とこの町を、この壺が砕けて二度と元に戻らないように砕く。死者はトフェトに葬られる。そこはもう埋葬の場所さえなくなるほどに埋め尽くされる」

彼はゆっくりと振り返った。長老と祭司たちの顔は青ざめていた。嘲笑は消え、代わりに本物の恐怖が、彼らの目の底に灯っている。彼らは無言でエレミヤを見つめ、やがて誰からともなく、ゆっくりと町へと戻り始めた。彼らの背中は、来た時よりも小さく見えた。

エレミヤはひとり、砕かれた壺の残骸の前に佇んだ。やがて彼も歩き出した。エルサレムの城壁が夕闇に黒く浮かび上がっている。町の中からは、いつものようにかすかな生活の音が聞こえてくる。しかし預言者の耳には、もう一つの音が響き続けていた。陶器の破片が岩にぶつかる、あの最後の鋭い音。それはもう、決して消えることはない。彼の内側で、この町の未来の形として、永遠に鳴り続けるのだ。

彼は歩きながら、陶器師の顔を思い浮かべた。あの職人は、自分が掘った土が、こうして砕かれる運命にあることを知って焼き上げたのだろうか。知らなかったに違いない。しかし神は知っておられた。すべての器が、その用途を終える時を。

城門が目前に迫ったとき、エレミヤはふと足を止めた。彼の着物の裾に、小さな素焼きの破片が一片、こびりついていた。彼はそれを拾い、掌に載せてみた。まだ窯の余温のような、かすかな温もりが残っているように感じた。彼はそれを懐にしまい、重い足取りで闇に吞まれゆく町の中へと歩いて行った。

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