聖書

見つけた喜び、帰る歓び

その日もガリラヤの丘は、午後の斜光を浴びて黄金に濁っていた。ヨセフは石垣の陰に腰を下ろし、羊の群れを数えていた。指が一本、また一本と折られていく。九十七、九十八、九十九。指が止まった。片手の指をもう一度折り直し、眉間に深い皺を刻んだ。一匹足りない。老いた目を細め、群れをじっと見渡す。若い雄羊の、あの角の少し歪んだやつがいない。

息をつき、杖をついて立ち上がる。九十九匹を囲いの中に残していくのは、心が揺れる。狼や盗賊のうわさも最近聞く。しかし、あの一匹がいない。迷ったまま夜を迎えさせれば、崖から転落するか、野犬の餌食になる。彼は重い扉を閉め、鍵を掛けた。九十九匹の不安そうな鳴き声を背に、丘の小道を登り始めた。

道は険しかった。イバラが袍の裾を引っ掛ける。彼はそれを引きちぎりながら進んだ。夕暮れ迫る空は茜色から葡萄色へと変わり、最初の星がぽつりと光った。喉が渇き、足は石に擦れて痛む。それでも彼は歩き続けた。叫んだ。「おーい!」声は丘に吸い込まれていく。返事はない。ふと、低い鳴き声が風に混じって聞えたような気がした。谷間の方だ。滑りそうな斜面を下り、茂みをかき分けると、そこにはいた。若い雄羊が、足を岩の割れ目に挟まれ、もがいていた。目は白く剥き、肋骨が荒い息で波打っている。

ヨセフは崩れそうな岩場にうつ伏せになり、ゆっくりと手を伸ばした。「ようやく見つけたぞ。もう大丈夫だ。」羊は暴れた。彼は滑り、肘を擦りむいた。血が滲む。それでも諦めず、岩の隙間に腕をねじ込み、ゆっくりと羊の足を解き放った。抱き上げると、その重みでよろめいた。羊の体は震え、熱い息を彼の頬に吹きかける。彼はその汚れた毛並みを撫で、「帰ろう」と呟いた。

家に着いた時は、もう夜が深かった。囲いの戸を開け、無事だった九十九匹の中に、連れ帰った一匹をそっと下ろした。彼はろうそくを持ってきた妻に、苦笑いを見せた。「あの傲慢な若造め、みすぼらしい姿だろ?」妻は何も言わず、傷ついた肘を見て、塩水に浸した布を差し出した。彼はぽつりと言った。「見つかった時は、怒りたい気持ちもあった。だけどな、奴が震えているのを見たら、もう…祝いたい気分になった。迷子の兄弟が帰ってきたんだ。一緒に喜んでくれないか?」

妻は頷き、貯蔵室から少しばかりの葡萄酒と、乾燥した無花果を取り出した。その晩、二人はろくに食べもしないで、ただ肩を並べて座り、囲いの中で眠りこける九十九匹と、その一角でぐっすりと眠る一匹の雄羊を見守っていた。

***
その翌日のことだった。ヨセフが井戸端で羊の傷の手当をしていると、隣家からすすり泣く声が聞こえてきた。細く、途切れ途切れの声だ。覗いてみると、アンナが床に這いつくばり、炉の灰をかき分けている。顔は煤だらけ、十本の指は探るように土の床を撫で回していた。
「アンナ、どうした?」
女は振り向き、涙で縞模様のできた頬を上げた。「銀貨が…嫁いだ時から持っていた十枚の銀貨の、一枚が無いんです。家中探した。でも見つからない。ああ…」
それは大変なことだった。十枚の銀貨は、彼女の持参金であり、夫亡き後、いざという時の命綱でもある。ヨセフは黙って家に入り、重い敷居を外し、窓の閉まっていた木の鎧戸を一つひとつ開けた。細い光の帯が、室内の埃を浮かび上がらせる。彼は箒を持ってきて、隅々の蜘蛛の巣を払い、寝床の藁をすべて持ち上げた。アンナは壺の中を何度もかき回し、陶器がぶつかる乾いた音を響かせた。

時間は過ぎた。ふと、ヨセフが炉の傍らで足を止めた。何かが微かに光った。彼はゆっくりと膝をつき、灰の中に指を差し入れた。冷たい金属の感触が指先に伝わった。引き抜くと、それは煤だらけではいたが、紛れもない銀貨だった。
「ああ!」アンナの声は、泣きじゃくりから喜びの叫びへと変わった。彼女は銀貨をぎゅっと握りしめ、外に飛び出していった。「ご近所さん!見てください!無くした銀貨が見つかったんです!」
彼女は通りがかった女たちの腕を取り、繰り返し叫んだ。最初は呆気に取られていた近所の女たちも、彼女の溢れるほどの喜びに引き込まれ、やがて笑顔を見せた。アンナは有り金すべてを使うと言って、大麦粉と蜂蜜を買い込み、小さな菓子を焼き始めた。その甘い匂いに誘われて、近所の子供たちが集まってきた。普段は静かな路地が、その日ばかりは笑い声に満ちた。

ヨセフは自分の家の戸口に立ち、その光景を遠くから眺めていた。ふと、彼の胸に去来したのは、遠くエルサレムの町に消えた、あの息子の顔だった。祝宴の騒ぎが、彼の耳には届かない別の寂しさとして響く。彼はそっと戸を閉めた。

***
そして三つ目の話は、ヨセフ自身の家に深く関わるものだった。
彼には二人の息子がいた。兄は生真面目で、父の仕事を骨身に染みて覚えようとする青年。弟は、目の奥にいつも遠い炎を宿していた。ガリラヤの丘も、父の羊の群れも、この小さな村の繰り返される日々も、彼には狭すぎた。ある朝、弟は父の前に立ち、はっきりと言った。「父さん。わたしがいただくはずの財産の分け前をください。」
その言葉は、父にとっては死を宣告されるにも等しいものだった。財産を分け与えるということは、父がまだ生きているうちに、子がその庇護と関係を断ち切ることを意味した。しかし父は、何も言わなかった。深く息を吸い、頷いた。数日後、弟は現金化された財産を鞄に詰め込み、ろばの背に乗った。エルサレムへ、そしてそれよりも遠く、海の向こうの喧噪と刺激を求めて。兄は固く唇を結び、黙ってその背中を見送っていた。父は、道が曲がり、息子の姿が見えなくなるまで、ずっと立ち尽くしていた。

それからの弟は、遠い国で財産を湯水のように使った。友達と称する大勢の者に囲まれ、毎夜宴席を張り、目新しいものには何でも手を出した。しかし友達も、楽しみも、財産が尽きると共に霧のように消えていった。丁度その国に大きな飢饉が訪れ、彼は食べるにも事欠くようになる。ようやく見つけた仕事は、豚の世話だった。ユダヤ人である彼にとって、豚は汚れた動物である。その豚の食べるいなご豆で腹を満たしたいと思うほど、彼は追い詰められた。豚たちがむさぼり食う豆の匂いが、彼の空腹を残酷にさいなむ。
ある日、豚の汚れた体に寄りかかりながら、彼はふと我に返った。父の雇い人たちでさえ、パンを食べ余している。自分はここで餓死しようとしている。彼は起き上がり、埃と豚の糞の臭いが染みついた服を着たまま、帰る決意をした。「父のところに行こう。こう言おう。『父さん、わたしは天に対しても、またあなたに対しても罪を犯しました。もうあなたの子と呼ばれる資格はありません。雇い人の一人にしてください』と。」

彼は重い足を引きずりながら帰路についた。財産を持って出て行った時のろばも、立派な外套も、革靴もない。足は血だらけで、希望もほとんどなかった。ただ、せめて雇い人としてなら泊めてくれるかもしれない、というかすかな望みだけが、彼を支えていた。

一方、父はその日も、息子が去っていった道を見つめていた。毎日の習慣だった。もう何年も、何の音沙汰もない。心配と悔恨が、彼の背をより曲げさせていった。その日、夕暮れが近づき、諦めて家に戻ろうとした時、ふと目にした。遠く、よろよろと歩く人影が。歩き方、痩せ衰えた体つき。それでも父の心臓は、一瞬で高鳴った。それは…まさか。父は確信した。走った。老いた体を顧みず、袍の裾が翻り、埃が舞い上がった。まだ遠くにいる息子のもとへ、必死に走る姿は、村の者たちの目には驚きと嘲りの的となった。家長が走るなど、ありえないことだった。

しかし父はそんなこと気にしない。息子に追いつき、その汚れきった体を、むしろ抱きしめるように腕に取り押さえた。息子は震えながら、用意してきた言葉を絞り出そうとした。「父さん、わたしは天に対しても…」
「さあ、早くこの上着を着せろ!それに指輪を!靴を!」
父は彼の言葉を遮り、早口に家来たちに指示を飛ばした。息子はただ呆然とするばかり。父は叫んだ。「肥えた子牛を屠れ!祝宴を始めるのだ!この息子は、死んでいたのに生き返り、いなくなっていたのに見つかったのだから!」
家の中は慌ただしくなった。喜びの声、子牛を引いていく音、火をおこす音。兄はちょうど畑から帰ってきた。祝宴の賑わいを不審に思い、使用人に事情を聞くと、顔がこわばった。父の元へ行こうとしない。父は外に出て、彼を迎えに来た。
「お前さん、ずっと私と一緒にいてくれた。私のものは全部お前のものだ。だが、お前の弟は死んでいたのに生き返り、失われていたのに見つかった。祝ってやらねばならんのだ。」
父の声には、兄をも納得させずにはおかない、深い確信と、静かな喜びが満ちていた。それは、九十九匹の安全を顧みず一匹を探しに出た羊飼いのそれであり、煤だらけの銀貨を握りしめて飛び出した女の、沸き立つ喜びとも少し違う。長い年月、耐え続けてきた父の、静かながらも底知れぬ赦しの祝宴が、その夜、ガリラヤの小さな村の一軒家で開かれたのである。
羊の囲いでは、百匹の羊が安らかに息づいていた。

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